焙煎士ノート

世界一のコーヒー生産量を誇り、コーヒーの代名詞でもあるブラジル。一方でその定番のイメージゆえに、クオリティの面ではあまり注目されることはありませんでした。実際にブラジルコーヒーの一般的な風味特性は、良く言えば飲みやすく、悪く言えば平板な味で、ブレンドにも一番よく使われます。ブラジルでも混ぜておこう、ブラジルしか混ぜられない、といった扱いが多いです。

欠点豆の少なさを見るネガティブ評価であるかつてのブラジル方式も、風味の美点を積極的に見つけようとするスペシャルティの評価方法とはわかりやすい対比として位置づけられてしまい、ますます「無難なコーヒー」として、個性の無さをラベリングされてしまったように思います。

これはロースターのみならず消費者視点でも同じイメージで、少し高めの美味しい豆を購入しようと思った時に、ブラジルが候補に入ってくることはあまりないでしょう。しかしブラジルでも最高ランクの品評会であるカップオブエクセレンスはずっと前から行われていますし、その評価、点数がアフリカや中米に劣るということもありません。ブラジルには広大な土地があり、また地形的にも収穫用の機械の導入がしやすいためか、高い質の豆でも比較的安く入手できる傾向があります。消費する側としては実は狙い目なのです。

トップ オブ トップクラスの
ブラジル セーハ・ド・ボネ農園のハニー

ブラジルのウォッシュトやパルプドナチュラルは、焙煎時の色の付き方が黒ずみがちで、浅煎りだとシワが目立つのですが、それに加えてブラジルらしからぬ水分の多さ、引き締まった密度が目立ちます。

イエローの段階に入ってしばらくしてもうっすらと緑色が残り、芯の硬さを感じます。

カップテストしてみたところ、ブラジルとは思えない高地産のような甘さと濃度に驚きました。ブラジルなのでフルーティーな香りこそ強くはないのですが、ハチミツのような粘度といいますか、シルクのような滑らかさがあり、花のようなフレーバーもあります。これらはトップオブトップのクラスに共通して見られる特徴で、ブラジルならではの個性が強くない代わりにこれらが如実に前面に出ている印象です。

トップスペシャルティ以上ではエチオピアや中米のナチュラル、ゲイシャ種などフルーティーで鮮烈な風味を持つ銘柄が取り沙汰されることが多いですが、ブラジルやペルーのような堂々とした味のトップクラスを経験すると、また新しい世界が広がっていくかもしれません。

青々としたニュークロップや高地産の非常に硬い豆のウォッシュトなどを相手にした時は、どうしても普通のペースの焙煎速度だと水分抜きが不足してしまいます。近年の高品質豆の中でもトップスペシャルティと呼ばれるようなレベルのものは、雑味の少なさが特徴でもあるので、水分が抜け切れていなくても結構美味しく感じられてしまうのがまた落とし穴となっています。

水分が抜け切った豆の味は、「スッキリしている」を超えて、トロみが出てくるのが特徴です。紅茶や緑茶にもよく感じられるタイプの渋味成分が弱くなり、甘味とコクが優位になってきます。丸い味、ラウンドマウスフィールが非常に強くなるのです。これは軽さと酸味が強みである浅煎りでも同じです。

生豆の質が今ほど高くはなく雑味が多かった頃は、ロースターも味のテストをするカッパーも、ネガティブがどれだけ少ないかに重点を置いていました。その傾向を端的に表していたのが、ダブル焙煎という、焙煎途中で豆を火から下ろして冷却し、のちに普通の焙煎をするという技術です。水分を抜くという点においてはまさに徹底的と言える方法で、メリットよりもデメリットの方がまさると判断されたのか、近年ではあまり見られなくなってしまいました。

ダブル焙煎をした豆は、強い渋味や酸味を出さない一方で、香りも味も弱くなってしまいます。これは仕方のないことだと思っていたのですが、湿度の高いある日にダブル焙煎に挑戦した時に、一度目の焙煎で火を入れすぎることをためらってかなり低い温度で下ろしてしまった豆が、二度目の焙煎後、味や香りが強いままだったことが一つのヒントとなって、水分抜きと味抜けをかなりの程度分離できることに気付きました。正確には分析できていませんが、一度目の焙煎でシワが出てくるところまで温度を上げてしまうことと、熱されてゆるみ始めた豆を冷却すること自体に味のボヤけの原因があるようです。つまり水分抜きを低い温度帯だけに集約させ、そして中断をしなければ味は弱くはならないということです。水分抜きの序盤に時間をかけるという発想は今までも何度もありましたが、それを極端にやっても上手くいくようです。豆の乾き方次第では途中からの大きな火力上昇が許されそうです。

手順こそダブルではありませんが、着想としては古くからあるこの技術が大変助けになりました。

豆がゆるみ始めてからこれぐらいの色になるまでの間に時間を長く稼ぎたいところです。

今年もSCAJに行ってきました。

昨年はコロナ禍の中で規模を縮小しての開催でしたが、今年はその反動もあったのか出展者が多く会場も広くとられ、過去最大の来場者数を記録するほどの盛況だったようです。

世界各国の生産者の方々も集まっていて、色とりどりのコーヒーの情報で溢れていました。

ただ、ゲイシャ種やパルプドナチュラル、嫌気発酵といった過去に時代を作ってきたような技術に関しては特に目新しいものはありませんでした。おたくのコーヒーがおいしいのは知ってるよ、という感じのものばかりで、派手なフレーバーを作るアイデアはとりあえず飽和状態なのでしょう。

高品質ロブスタの量産を目指すベトナムコーヒーや、ペルーのゲイシャ種、コロンビアのナチュラルといったように、従来の技術を広く普及、発展させて国や生産環境の垣根を越えようとしている動きが感じ取られました。コーヒーとの共通点も多いカカオ(チョコレート)のブースが多く見られたのもそうした流れの一つかもしれません。

となると、生豆の個性ではなく焙煎士の個性が光る時代だ、とばかりに恒例のローストマスターズチームチャレンジに足が向きました。

昨年は深煎りがテーマで、今年のお題も深煎りに耐えられるケニアの焙煎。

スペシャルティの世界でも深煎りの方向にシフトしていきているのかと期待してオーディエンスとして参加しましたが、その内容は予想とは違うものでした。

エントリーされたコーヒーの焙煎度は全てが浅煎り。厳密には中煎りといえるものもあるようでしたが、いわゆるフルシティローストに達しているものは一つもありませんでした。もっとも、どの深さがフルシティで中深煎りなのかわからなくなるほど基準が浅く、これではケニアを選んだ意義も薄れてしまいます。ルワンダやニカラグアがお題ならともかく、昨年は深煎り、今年はケニアがテーマで、この2年の計18杯のコーヒーの中で深煎りがついぞ一つも無いというのは、深煎りを避けているというよりも、共通認識としての焙煎度の基準が大幅に変わってきているということなのでしょう。

カッピングの手法にも一因があると思います。生豆の公平な評価において非常に優れた手段となるカッピングも、焙煎の出来を評価する手段としては万能とは言えません。コーヒーの油分を出し切る抽出法は硬質豆を浅く煎り止めた際の渋味をある程度ぼやかしてマスキングしてしまいますし、さらにその渋味は舌の奥で感じ取れる部分が多いので飲み込まないカッピング手法では感じ取りにくいのです。確か昨年優勝した豆はこの渋味が少なく、オーディエンスの投票とプロのカッパーの評価が同じで二冠を取っていましたが、今年は1位も2位もオーディエンスとカッパーの評価がバラバラで、計4チームが入賞していました。お客さんだってほぼ全員がコーヒーの愛好家なわけですから、カッピングでひときわ絶賛されていた2チームがオーディエンス投票で両方とも2位にも入らないというのはやはり無視はできないでしょう。カッパーの方はフレーバーよりもクリーンカップこそが最も重要であり、これがクリアできればフレーバーはおのずとついてくるとおっしゃっていましたが、これは同感でして、だからこそ普通のカップコーヒーを大勢の人に飲んでもらうというのが大事なのではないでしょうか。この2年の投票人気を見る限り、一般の方々も明らかに華やかなフレーバーよりもクリーンカップを高く評価する傾向があるのが見てとれます。そして、彼らが普段飲んでいるコーヒーはドリップがメインのはずです。

オーディエンス部門があるこの企画はとても有意義だと思いますので、生産地だけでなく消費者の垣根もこれからはどんどん越えていってほしいと願っています。

焙煎の前半における豆の水抜きは基本中の基本であるがゆえに、その正確さが意識の隅に追いやられてしまうことがあります。どの程度水分を含んでいるか、煎り上がりの水分の飛び方がどれぐらいかが、見ただけではよく分からないためです。どれぐらい水分が抜けていれば合格であるか、そのラインを忘れてしまいがちになります。

高地産であること、収穫から間もないニュークロップであること、粒が大きいことなどが主な指標になりますが、湿度の高い日本の場合は特に季節に気をつけなければなりません。

青々とした重みのあるコーヒーの生豆が空気中の水分程度でそんなに影響を受けるのかと思っていましたが、焙煎するとなるとこれが想像以上に大きいようです。

ロースターの手元にやってくる生豆の含水率は一般的に11〜13%程度ですが、これが少し上がって14〜15%ぐらいになると、もう豆の反応が大きく変化していきます。同じ条件、同じ煎り止めをしても、煎り上がりの色はもちろん豆のサイズが明らかに違います。並べて比べなくても片方を見ただけで分かるほどの焙煎豆のサイズ差があるということは、同じ生豆でも完全に別物の製品になったと見て良いでしょう。

東京都の年間の平均湿度は60〜65%ほどありますが、季節や地域によって75%あたりになってくると、この生豆の含水率が13%を超えてくるようです。梅雨や台風が来る季節では90%を超えるような日が何日も続くこともあり、その空気にさらされ続けた生豆の含水率はおそらく16%以上に達し、冬場の焙煎のような水抜き程度では歯が立たなくなってきます。

春先に焙煎が狂うのは、冬の間に冷え切った生豆がある日に急な暖気にさらされて結露しているためなのでは、とも考え始めています。

バキュームパックのような空気を遮断する保管が出来れば良いのですが、一回の焙煎ごとに詰めなおすわけにもいかないので、この高い含水率の生豆をどう煎り上げるかの方が重要です。

水分が多いと言っても、精製されたあとに湿度によって増えただけなので、豆の成分それ自体が濃くなったわけではありません。なので適切な煎りの深さや後半の進行速度といった豆の個性は変化していません。豆の反応がまだ少なく、かつ水分がよく抜ける100〜130℃間の時間を長くとるだけでかなり改善します。

エクアドルのコーヒーが新しく入荷しました。

エクアドルといえば、味が淡白で飲みやすい、主張のない豆として、浅煎りのブレンド向きであり、90年代に起こったサビ病の被害によって生産量の縮小を続けてきたこともあって、近年まではあまり主役にはなりませんでした。

ハイチやキューバ、ジャマイカと同じく、スペシャルティの流れにいまひとつ乗りきれていないように見えた国の一つでもあり、しばらく取り扱いを停止していたロースターの方も多かったと思います。しかしながら、ここ数年で飛躍的にラインナップが増え、優良なスペシャルティコーヒーが頭角を現してきました。国内のコーヒーの危機的な状況を打破しようと、文字通りまいてきた種がやや遅れながらも芽吹いてきたということでしょう。

スペシャルティの時代のエクアドルということで意気込みと懐かしさを感じながら焙煎してみたところ、個性の大きな変化に驚きました。その色の付き方は高地産のコロンビアなどと同じく、シワがなかなか伸びず、浅く煎り止めるのがためらわれるほどの赤黒さです。明るい黄色を放っていたかつてのエクアドルとは別物にしか見えません。

エクアドル サン・フランシスコ農園のウォッシュト

カップテストしてみたことろ、これまた非常に面白い個性になっていました。焙煎時の印象どおりの風味ではありますが、昔のエクアドルのナッツ感が高地産の酸と「混ざり合って」表現しがたい質感に。ドミニカのようにナッツ感とフルーティーさが組み合わされ別々に感じられる個性は他にもありましたが、エクアドルのスペシャルティは融合して新しい味に変化していました。変な例えかもしれませんが、赤土のような香気といいますか、柿やビワのようなしっとりとした風味に感じ取れました。

コロンビアのウィラやケニアのニエリなどと同じく、クオリティの上昇とともに別のイメージへと変化した銘柄になっているようです。

焙煎度は大まかに浅煎り、中煎り、深煎りの三つに分けられますが、アメリカ方式でもう少し細分化するとライト、シナモン、ミディアム、ハイ、シティ、フルシティ、フレンチ、イタリアンの八つに分けられます。

大手エスプレッソバーなどでは油脂をまとった漆黒の豆が誰にでも見えるようにミルの中に入って置いてありますが、あれがイタリアンか、それ以上の焙煎度です。もう少し黒みを抑えた味に厚みのある深煎りだとフレンチ、ブラックでも飲みやすい中深煎りのフルシティ、酸味が苦味と釣り合ってくるシティ、といったように浅くなっていき、飲料として最も浅い下限がミディアムと言われています。

浅ければ浅いほど酸味が強くなるというイメージから、さらに浅いシナモン、ライトならもっとキツい目が醒めるような酸を楽しめるのかというと、そうでもありません。

焙煎中、様々な種類の酸が深煎りに近づくほど減少していきますが、これらは焙煎を開始した直後から減っていくわけではなく、途中から現れて増加しピークを境に減少するという山なりのグラフを描くものがほとんどです。時間に比例して減っていくのは最近有名になったクロロゲン酸ぐらいでしょうか。コーヒーらしい酸味がもっとも出てくるのがミディアムからということです。

このミディアムよりも浅いシナモン、ライトの豆がどのような味になるかというと、「木の味」です。あるいは麦茶やゴボウ茶を飲んでいるような感覚で、キュッと効いてくる酸味がありません。酸味が魅力の浅煎りコーヒーが流行って久しいですが、フルーティーで爽やかな浅煎りを創り続けるお店は、無闇に早く煎り止めることはせず、この酸味が出る一点を知っているのです。

様々な酸が複合的なタイミングで増減します。焙煎が迷宮と言われる理由の一つです。

コーヒーの味を審査するカッピングにおいては、酸の質や後味の印象度、カップのきれいさなど8項目(sca方式では10項目ほど)にそれぞれ点数をつけ、合計で80点以上ならスペシャルティです、といったように数字で評価されますが、それぞれの項目においてさらに具体的に説明をするメモ欄のようなところがあり、カッパーの方々は各々感じたことを記していきます。アフターテイストは甘いけれど持続しない、酸の質はきれいだが弱い、フレーバーはベリー系ではなくシトラス系だ、といった具合です。

そういったたくさんの所感や評価の言葉の一つに、improve(インプルーブ、向上)というものがあります。時間が経過して、あるいは冷めて、より良くなったという意味で使われます。

普段飲みのコモディティコーヒーでは、冷めたときにどれだけ味が落ちるかというネガティブ評価の方がメインだったと思います。芯まで火が通った適切な焙煎がなされている豆であればこのネガティブが少なく、抽出後に一晩置いてもブラックですいっと飲めてしまいます。

ところがトップスペシャルティ以上の生豆になってくると、時間経過によるネガティブが少ないどころか、むしろ良くなっていくという現象が起こります。これは上手な焙煎で作り出せるもの以上の力で、生豆の質に依存する部分が多いとされています。

スペシャルティ水準の豆や丁寧に焙煎された豆に慣れた人にとっては、抽出直後の熱々のコーヒーよりも少しぬるくなった方が味が分かりやすくて良い、というのは昔からよく言われたもので当然のように感じますが、カップオブエクセレンスで入賞するようなトップクラスを正確に煎り止めた豆をカップテストしてみた時に、時間が経てば経つほどフレーバーが強くなるという状況に出くわしました。時間が経つと酸や甘さが重厚に感じやすくなるということは経験があるのですが、抽出した後に一時間経って冷めたコーヒーよりも、三時間経ったコーヒーの方がフルーツ系のフレーバーが発達していたのです。これは初めての経験でした。モノがいいほど時間で向上していくというのは、冷たいから分かりやすくなるということではなく、本当に上昇していくものなのだと改めて確認できました

スペシャルティコーヒーの中枢である中米の中では日本における知名度やイメージが薄めのニカラグアですが、そのクオリティはやはり世界の先端であり、生産量も多いです。ブルボンやカトゥーラ、パカマラやジャバニカといった様々な品種が扱われており、ウォッシュトやナチュラル、パルプドナチュラルと生産処理法も幅広い印象です。標高によって格付けされますが、高い場所で作られた豆もそれほど硬度や水分は感じさせない、温厚そうな見た目となっています。

エル・ススピロ農園産のパルプドナチュラル

焙煎中の色のつき方が素直で、常に明るい色を維持しながら進んでいくので分かりやすいです。同じくシワが目立たず、見やすいドミニカと比べても酸味が失われるタイミングにシビアさがありません。中煎り以上にはあまり向きませんが、焙煎は易しい部類だと思います。

風味特性としては、ボディの強いジューシーな浅煎り系、といった感じでしょうか。高地産のような濃度はそれほどないのですが、どこかどっしりとした量感がある。それが豊かな酸と合わさると、ジュースのような飲みごたえのある果実感となります。人によっては果物の皮のような軽い渋味ともとれる、クリーンさを阻害しない優しい濁りとも言えるような質感があり、これはどの生産処理でも共通しているようです。

爽やかな浅煎りが持ち味のサードウェーブ系のお店では主役の一人であることが多く、きつい酸味を和らげるコクも持ち合わせていますので、酸味が苦手だった人の浅煎りの入り口としてはこのニカラグアがおすすめです。

エチオピアのイルガチェフェ地区やグァテマラのウェウェテナンゴ地区など、スペシャルティコーヒーの流れにいち早く乗り、その名を世界に広めた時代の申し子のような農園や地区はいくつもありますが、銘柄一つでブランドを確立したこのドミニカのワイニーもなかなか異色といえます。

ハイチやジャマイカなど、スペシャルティの世界にあまり深く入っていかなかった生産国がいくつかあり、ドミニカもその一つになるような気配がありました。そのイメージを2007年にドミニカのコーヒー協会の品評会で入賞したワイニーナチュラルが覆します。

この豆の特徴はなんといってもストレートなナチュラルフレーバー。ナチュラルは様々な果実の風味が組み合わされていて表現に困ることも多いのですが、これは「赤ワイン」の一言で済んでしまう分かりやすさがあります。少しダークチョコレートのような優しい苦味も伴いますが、狙った味を出すのに苦労することはありません。

この豆のもう一つの特徴は、カリブ海系のナッツ感、軽さを失っていないことです。派手で華やかな果実風味は高地産の豆や硬質豆に強く出ることが多く、それらは重厚な酸やボディを伴うのですが、これにはそれらが無く、ハイチやキューバのような滑らかさ、軽やかさがあります。いわゆる飲み疲れがあまり起こらないパリっとした爽やかさで、強烈なフレーバーと軽い味という個性はかえって珍しいです。

焙煎度は浅煎りが適正で、中煎りに少しでも入れると平板な味になってしまいます。他のカリブ海系と同じく、焙煎のどの工程でも黒ジワに覆われることがなく、粒も大きい。深煎りのペルーと同じような豆の綺麗さで、変化が乏しく、のんびり見ているとあっという間に色付いてしまいます。狙った風味を出すのは難しくないのですが、明瞭な酸が消失するタイミングが少し早く、かなり思い切った浅煎りを意識した方が上手くいきます。

数年前にグァテマラのナチュラルの香気に衝撃を受けて以来、グァテマラのウォッシュトの焙煎からしばらく遠ざかっていましたが、ナチュラルはやや個性が強すぎてストレート向きだと感じて、ブレンド用としてウォッシュトを再開することにしました。

グァテマラコーヒーの主役の一つであるアンティグア地区、サン・セバスティアン農園の産。生豆の包装を開けてみると、カカオのような香りがふわっと広がり、ナチュラルとは大きく違う個性を感じさせます。エチオピアのようにもともとフルーティーな豆はウォッシュトでもナチュラルでも割と近い個性が出ますが、グァテマラはかなり別物に変化するようです。

焙煎した手応えは、ブラジルのウォッシュトに近いものがありました。シワがいつまでも消えず、常に黒ずんでいるように見えるので、排気を強めるタイミングが分かりづらいです。ナチュラルに目が慣れたせいなのか、他の国のウォッシュトと比べても水分の抜けが悪いように感じてしまいます。

コロンビアやマンデリンなどは、どちらかといえばオーバーローストに弱く、シワが消えるタイミングを見計らって少し浅めを狙うことで上手くいくことが多いのですが、グァテマラウォッシュトは逆に深めの方向にポイントがあり、少しでも浅めに終えると渋みが出てきてしまいます。ゲイシャ種をはじめシワをのばしきらない方が良い豆は増えてきましたが、これはしっかりと伸ばした方が良いようです。深めを狙うとはいってもグァテマラの許容範囲は狭く、シビアな煎り止めを要求されます。

ベストポイントに当てることができたグァテマラウォッシュトにはココアのような独特のボディがあり、フレーバーの強さに頼らない太い甘みがあります。かつてブラジルやコロンビアがメインだった日本のコーヒーに中深煎りの迫力を広めたあのグァテマラの記憶が蘇ります。ゲイシャやナチュラルの華やかさから一歩距離を置きたい時には一番欲しくなる風味かもしれません。


             ウォッシュト     ナチュラル

生産性の向上のために生まれた交配種によるボディ、コクの低下はマンデリンによく感じられますが、ケニアにも近い傾向があります。

ケニアの個性はマンデリンと比べるとどっしりとした量感というよりは酸の質が前面に出ているタイプなので、多少軽くスッキリとしていても、それらしさはまだ残ってはいますが、やはり深煎りに耐えられる硬質豆の代表格であったケニアが力強さに欠けるというのはどうしても惜しい。交配種のケニアもコーヒーとしては間違いなく高品質ではあるので、ケニアには2種類のタイプがあるという扱い方が必要かもしれません。

ケニアの交配種として有名なのは、ルイル11(ルイルイレブン)です。ケニアにはSL28とか34とか覚えづらい番号のような名前の品種もありますが、品種、項目にルイルの文字が見えたら「スッキリ系」と考えていいでしょう。

ただしこの交配種は、浅煎りにも向くという新しい個性があります。エチオピアは同じ豆でも深煎りと浅煎り両方に耐えられますが、ケニアの従来の品種は深く煎らないと味がキツくなり、交配種は深煎りで味が飛びやすく浅めでも渋さが残りにくいというキャラクターになっています。

これは、パナマ以外のゲイシャ種にも似た問題があります。その土地の風味特性と、ゲイシャが持つ種の個性が組み合わさって煎り止めのベストポイントが変化してしまうのです。ゲイシャだから深煎りには向かない、でもコロンビアだからあまり浅くもできない、なんとなく中煎りにするだけでも個性が出ない、といった具合で、微妙な一点を要求されます。ゲイシャや交配種は、総じてティピカやブルボンをはじめとしたアラビカ種と比べて浅煎りに向くようになっているようです。

コロンビアではカスティージョという交配種がメインになりつつあり、赤道から少し遠くて標高が低めのウィラ地区などは煎り止めのポイントが少し浅めであり、非常に華やかで魅力的なコーヒーであり人気も高まっていますが、やはりマンデリンやケニアの場合と同じく、別のタイプとして付き合っていきたいものです。


コーヒー焙煎の水分抜きは基本中の基本と捉えられていますが、それゆえにその出来を見誤ることがよくあります。フレーバーの強さや酸の明るさを求め続けて試行錯誤を繰り返すうちに、水分の抜け方はこんなもの、クリアできてて当然であるかのように意識の端に追いやられてしまうことがあります。今の出来よりももっと水分と雑味が少ない状態は存在するよ、という発想にならなくなってしまうのです。これは、華やかで明るい風味のスペシャルティクラスのコーヒーに慣れてくるほど陥りやすいものと思われます。

この落とし穴から抜け出す一つのきっかけになるのは、春先の季節の変わり目の焙煎速度の変化です。冬場はまだセーフだった水分抜けが、春になって少し引っかかるようになってきます。100℃から200℃にも達する焙煎機に対して人間が活動する気温の変化などがそんなに影響があるのか、と思われるかもしれませんが、5kg釜の焙煎にかかる時間は短くても10分以上、長ければ25分ほどかかり、その間ずっと、釜の外の気温が影響し続けるわけですから決して無視できるものではありません。水抜きの時間が23分だけでも短くなると、味のクドさが明らかに増してしまうのが焙煎ですから、特に旧式の焙煎機の場合は気温に対して火力を調節することは必須となります。

実際に水分が抜けていくのは豆が緩み始める温度(90℃100℃)あたりから焙煎終了までの間であり、予熱を低くとってスタートから90度までの時間を長くとってもその区間では水抜きの効果はあまり得られません。この100℃以降の水抜きはどうやっても時間の長さが必要です。釜の蓄熱と火力の合力が高いほど焙煎は速く進みますから、釜の蓄熱が高い場合の強火はもちろん速く進んでしまいます。蓄熱が低い場合では、前半こそ低い蓄熱によって強火であっても速度は抑えられますが、100℃に達するまでに強火が長い時間使われることになりますので、水が抜け始める頃には釜が十分に温まってしまうことになり、やはり中盤から速くなってしまいます。どちらにしても強火は水抜きには基本的に向きません。高地産のスペシャルティのニュークロップともなると、従来の20分焙煎ですら不十分と言えるほどの難敵であり、特に近年の豆はクオリティとともに成分の密度も上がってきていますので、今後はかなり大胆な長時間焙煎も選択肢に入れた方が良いかもしれません。

スペシャルティコーヒーは味に厚みがあるだけでなくその明るさ、軽さが特徴でもありますので、焙煎直後のカッピングによるテストで騙されて雑味が無いと判断してしまうことがあります。水分が残った豆は日にちが経つほど、またコーヒー液では冷めてから時間が経つほど、その欠点が現れます。良質な強い苦味と水が抜けきっていない味とを見分ける味覚を磨くことも焙煎の向上のためには大変重要です。

渋み抜きや味の滑らかさ、テクスチャ(輪郭、ボディ)を強くする目的のために、前半にダンパーを閉じぎみにして豆に圧力をかけて進める焙煎をしていますが、季節や気温などの外的要因だけではなく、豆や焙煎の特性に応じて最適なダンパーの開度、圧力も少し変わります。少し、というのはダンパーを開度が僅かに変化するだけで味が大きくブレるという怖さ、繊細さがあるからです。

ガス圧(火力)の場合、温度やタイミングによっては強火や弱火の冒険が許されることもありますが、ダンパーの「閉め過ぎ」に関しては、たとえ低い予熱、低い火力における最序盤の2、3分間であっても決定的なアフターテイスト、後味の悪さに繋がってしまいます。生豆がまだ熱くもない状態で数分間だけ強い圧力をかけただけでそうなるのは不思議ですが、この場合の味はファーストタッチではまろやかで雑味が無いように感じられるのが特徴です。しばらくしていつまでも苦味が残るようなくどさが出て、また口に含むとコクと旨味が感じられ、飲み込んだ後にまたくどさが残る、という二面性を抱えるので評価がしづらいです。

こうした閉じ過ぎによるアフターの悪さは、出てくるのが焙煎後の3日目あたりからという時間差があるところも困りものです。焙煎直後にカップテストをして印象が良かったのでブレンドに入れてしまって、数日後に違和感があっても何が原因か分かりづらくなります。こういう経時変化に弱い豆を作るというミスをしてしまうと、豆の種類を多く揃えている場合には混乱してしまうので厄介です。


生豆と焙煎方法と開度の関係としては、粒が大きく硬い豆ほど、また予熱を低くとっているほど、ダンパーの閉まり過ぎには弱くなる、という傾向があるようです。コロンビアのような硬い豆を低めの予熱で投入して軽めに仕上げようとした場合、いつも通りの開度だと少し芯が焦げたような出来になり、コロンビアの華やかさが損なわれやすくなります。逆にブラジルのような柔らかめの豆を予熱高めで苦めに仕上げようとするなら、強めに閉めても悪いアフターは出ずクリーンで重みのあるコクが楽しめます。

焙煎後の豆にシルバースキン(薄皮、チャフ)が残ってしまうことが多くなりました。酸味が強いかなり浅煎りの豆もラインナップに加えようと思い、シナモンロースト〜ミディアムローストあたりの焙煎度で煎り止めるのですがこの浅さだと白い皮が飛び切らずまだらな仕上がりになってしまいがちです。

浅煎りであってもダンパーを使い豆に圧力をかける焙煎を行っていますので、どうしても豆のチャフの排出力は落ちてしまいます。圧力をやや弱め、煎り止めをもう少し遅らせれば完全に飛ばせるという微妙な境目なので、味が大きく落ちるほどの量が残るわけではありませんが、妥協の無い芯まで火が通った極浅煎りに一度挑戦したくなり、焙煎前に生豆の水洗いを試してみました。

水に浸すと、いくつか浮かんでくる豆があります。スペシャルティとはいえ重さが完全に揃っているわけではないことが分かります。

50℃程度の湯でそのまま手で揉み洗いすると、みるみるうちに黒く濁っていきます。明らかに薄皮、シルバースキンだけではありません。微粉ともいえるような表皮の汚れを数回水を取り替えて洗い落としていきます。

簡単に水を切り、表面が乾いたところで焙煎釜に投入したのですが、釜の予熱を一気に使い切って通常よりもはるかに低い温度からのスタートとなり、その後の上昇速度も遅い。例え豆の表面が乾いていても、水は豆の内部まで浸透していて、水の比熱により非常に温度が上がりにくくなってしまっているようです。

常温では何日経っても内部の水は抜けず、待っていたら衛生面の問題もあるので、焙煎機で焙煎が進まない60℃程度の温度でしばらく撹拌してあげることにより乾燥させることが出来ました。

乾いてさえいれば焙煎は普通に進みます。できた豆をカップテストしてみると、華やかな風味が少し弱くなり、ボディも軽くなった分、明るい酸が際立つようになりました。例えるならレモンのような、良く言えば爽やか、悪く言えば単調な風味になったといえます。どちらかといえばあまり重厚ではない風味の豆を飲みやすく仕上げるのに向いた方法だと思います。

ハンドピックによる豆の選別以外で生豆に手を加える作業は初めてですが、コーヒー豆生産者の仕事の一部を少しだけ真似できたような気がします。

半熱風式の焙煎において、ガス圧(火力)には留意すべき二つの性質があります。

一つは短時間焙煎にするか長時間焙煎にするかという時間、速度の問題。もう一つは対流熱の比率を上げるか接触熱(伝導熱)の比率を上げるかという焙煎のタイプの問題です。蓄熱が高いほど直火寄りに、低いほど熱風寄りになるという話と組み合わせて、火力でもどちらに寄せるかということを考えなければなりません。火力という言葉から強火なら伝導熱が増えるように感じてしまいますが、実際は強火の方が対流熱寄りの焙煎、熱風式焙煎の味に近づいていきます。

少しややこしいですが、これは対流熱の量は火力の強さにすぐ連動するのに対し、伝導熱の量は火力と釣り合った量に達するのに少し時間がかかり、そのタイムラグがあるためです。

例として予熱ゼロの冷たい焙煎機で強火でスタートした場合、序盤は多量の熱風が豆を加熱していく一方、釜はそれほどすぐには熱くなってくれません。火が当たっている釜底面の温度はある程度火力と連動しますが、それも全面の一部ですから熱風ほどの加熱力はありません。熱風がぐんぐん豆を加熱し、焙煎の中盤に入ったあたりからようやく釜全面がほんのりと熱くなってきます。この時点でもう豆は熱風を十分に受けた焙煎になっており、後半に釜の伝導熱が対流熱にようやく近づいてきた頃には焙煎終了です。

これが弱火の低予熱の長時間焙煎の場合、序盤こそ熱風で少しづつ上がっていくものの時間がかかり、豆が上がり切らないうちからだんだんと釜全体が温まってきて、低い温度帯で伝導熱と対流熱が釣り合ってきます。強火の時と比べて、対流熱と伝導熱が半々という状態が手前で訪れ、長く続くわけです。

高蓄熱の高火力の場合は最初から最後まで対流熱と伝導熱が釣り合ったまま短時間に焙煎が終わり、高蓄熱の弱火力の場合だと序盤が伝導熱寄り、中盤以降は釣り合うというラインを辿ります。釜は温まるのに時間がかかりますが、高蓄熱低火力で始めた場合、今度はなかなか弱火に釣り合った低蓄熱にまで下がってくれません。これだと前半から中盤の長きにかけて、直火寄りの環境にさらされることになります。上がる時も下がる時も釜の温度には慣性が働くような感じで、変化が遅く、ラグがあるわけです。

弱火だとどちらでも熱風寄りの味にはならないということになります。弱火で進めると酸味が弱くなるのは、長時間焙煎によって成分が消失したということだけでなく、どう予熱を取っても直火に寄っていくからというのも大きな原因でしょう。ただ、直火に寄せた焙煎は苦味も増える分、甘みも増すので悩ましいところです。中程度の予熱で中火で進める焙煎というのは、やはり基本として優れているのです。

これらはすべて一定火力で進めた場合の話で、火力の途中変更を考慮するとさらに複雑になってしまうのでそれはまた別の話になります。

冬に入ってから浅煎りにあまり向かない苦味が乗るようになりました。深煎りを含めた全体としては悪い味になっていたわけではないので、操作ミスではなく個性付けを間違えているのではと思い、全二十数種類の豆の同時カッピングテストを行い、様々な他店のコーヒーも検証してみたところ、自身の焙煎豆にここ数週間、直火寄りの特徴が出ていることが分かりました。

直火式焙煎と熱風式焙煎の名店をめぐってみて気付きました。直火系の味の特徴などはすでに知っていたのに、なぜそこまでやらないと気付けなかったかというと、焙煎の操作と結果が従来のイメージとは正反対だったために、にわかには信じられなかったからです。気温が低いことを意識して、豆を投入する前に釜の予熱作りに時間を長くかけ、そしてそれが熱風系の味に寄せる操作と思っていましたが、これが違いました。

半熱風式において焙煎中に豆が受ける熱には主に熱源から送り込まれてきた熱風による対流熱、熱せられた釜の内側の面との接触によって受ける伝導熱、そして熱せられた釜や豆が赤外線などの電磁波によって他の豆にエネルギーを与える輻射熱の三つがあります。対流熱がスッキリした味を作り、伝導熱と輻射熱がどっしりした味を作ります。時間をかけて釜の内部だけでなく全体を十分に温めて、その予熱、蓄熱を頼りに火力を弱めたまま進めれば熱風系のスッキリした味に仕上がる、というイメージで焙煎していたのですが、これをやるとむしろ直火系の香ばしく太い味に近づくのです。

釜の内部の予熱というのは焙煎の序盤こそ豆に大きな熱を与えますが、すぐに蓄えが尽き、続きは釜全体の蓄熱から貰うことになります。その時に貰う熱は、伝導熱と輻射熱です。伝導熱だけでなく輻射熱も豆の表面を強く加熱する性質がある(どっしりした味になる)という情報も気付きのきっかけの一つでした。この高い蓄熱状態で弱火を使っているとなると、送り込まれる熱風も弱いものとなり、熱風の比率はさらに下がり、明らかな直火寄りの焙煎の完成となります。逆の例で極端なものだと、予熱ゼロの冷たい釜にいきなり投入して中火で進めるという強引な方法で出来た豆は、明るく綺麗な酸と、弱いコクと渋みを持つ熱風系の長所と短所が色濃く出ている豆になります。

熱風式も直火式も丁寧に行えば素晴らしい風味を出してくれる方法ですが、特徴を把握しきれておらず、ここ数週間は豆の個性を十分に引き出すことが出来ていないシーズンでした。

今年もさらに少しづつではありますが焙煎士ノートを更新していきたいと思います。

コロンビアのゲイシャ種が入荷しましたので焙煎に挑戦しました。

生豆としてはゲイシャの細長い形質がありながらも特徴的とまでは言えず、コロンビアの色の青さと厚みを備えた標準的な外観。中火で始めましたが、焙煎の進みが早く、温度は194℃の時点ですでに写真の真ん中、シティローストのような光沢があり、187℃であげても左のような中煎り寄りのハイローストぐらいの色付き方。

結果としては、ゲイシャらしい個性を備えながらも、パナマのゲイシャのような強烈さは無く、スペシャルティのボリビアやルワンダのような華やかでティーライクな、大人しめの優良品種といった感じです。

コロンビアの高地産らしい芯の硬さのようなものも確かにあり、あまり浅煎りを狙うと渋みが出る恐れがあり、それでいて中煎り程度までいくと華やかさがあっという間に消えてしまうゲイシャらしさも備えているので、煎り止めが難しいというよりもベストな点が無い、というような印象を受けました。

以前、エチオピアのゲイシャも焙煎したことがあるのですが、ゲイシャらしい「ウーロン茶」感がありながらも強いフレーバーとまではいかず、トップスペシャルティの他品種のナチュラルの方がはるかに個性が強いといえます。ゲイシャはパナマの特権というわけではないと思いますが、土地のテロワールとゲイシャ種の個性が相殺し合ってしまうという面はあるように感じます。

近年ではフレーバーの強烈さは様々な品種や生産処理で生み出すことが可能になってきていますので、ゲイシャ種も今後は突出した存在ではなく、パカマラ種のような個性のある品種の一つ、という位置付けになっていくのではないでしょうか。ゲイシャ種がユニークで無二のキャラクターであることは間違いないので、ブルマンやハワイコナのようにあまりにも高い価格によっていつまでも希少な銘柄であり続けるのはもったいないと思います。

フレーバーが細かく表記されたコーヒーを見ることが多くなってきました。コーヒーの好みといえば今までは苦い方か酸っぱい方か、しっかりした方かスッキリした方かでだいたい大別できたのですが、スペシャルティコーヒーの場合はそういった形容詞はあまり使われず、他のものに「例える」手法が多いです。チョコレートやナッツ、オレンジやベリー、麦やシナモンといったように、一見ピンとこないものであっても実際飲んでみると確かにその通りだと納得してしまうほど個性が分かりやすくなってきています。

酸味の効いた華やかな浅煎りの風味は「フルーティ」で括られることが多いかと思いますが、この華やかさの中にも明確に異なるいくつかの種類があります。そしてその種類によって要求される焙煎も異なるのが面白いです。

フローラルとかフラワリーなどと呼ばれるフレーバーがあります。果実とはまた違う花のような香味のことで、ケニアのニエリ地区やキリニャガ地区、コロンビアのウィラ地区、イエメン、あるいはパカマラ種などによく感じられる質感のフレーバーです。またホワイトハニーという、生豆の粘液質を少しだけ残す生産処理などでもよく現れる傾向があります。弱火や長時間焙煎、高めの予熱など、優しめの味に仕上げる焙煎では残りやすいですが、強火や低い予熱など、シャープな味を目指す焙煎で飛んでしまいやすい傾向があります。また、不正確な煎り止めにも弱く、ベストな一点を把握していないと消えてしまいやすい繊細な個性でもあります。

それから、ティーライクという言葉も良く使われるようになりました。日本人がイメージする優しい紅茶というよりは、ブラックティーと呼んでみたり高級な中国茶のようなエキゾチックな風味の方がイメージに近いでしょうか。エチオピアのイルガチャフ地区やルワンダ、ボリビアなどが持っている個性ですが、とりわけゲイシャ種はこれが顕著に出る代表格で、コーヒーのティーライクというものがどういうものなのかを体験したければゲイシャ種をお勧めします。ただしだいぶ値が張りますが。  フローラルにやや近い印象ですが、こちらは弱火や長時間焙煎、圧力を丁寧にかけすぎるといった、甘みとコクを重視した焙煎を行うと相対的に弱まってしまいます。花のようにぽんやりとした優しい風味のフローラルとは対照的にキリッとした冴えた風味なので、ある程度引き締まった焙煎が要求されるわけです。

そしてフルーティですが、これは高地産のナチュラルではたいてい強く感じられる風味で、強火でも弱火でも、長時間焙煎でもあまり飛ばない強さがありますが、オーバローストにだけは弱い。煎り止めの点は豆によって大きく異なりますが、ベストポイントを少しでも超えた所から急速に失われていく傾向があります。

ただ、これらの風味は失われたからといって必ずしも味が落ちるとは限りません。例えばケニアからフローラルさが失われたとしてもチョコレートのような味に仕上げることも出来ますし、エチオピアのティーライクさが弱まったとしても強い酸味で勝負することだって出来ます。要するにどんな味を目指すかが先であって、そのために生豆の力を借りている、というのがロースターのスタンスです。

SCAJ2021のカンファレンス、エキシビジョンに行ってきました。

去年はコロナの影響で開催が出来なかったので二年ぶりとなります。例年よりも規模は縮小され、来場者も海外の関係者も人数は減っているようでした。

しかし展示されているコーヒー豆は数年前と比べてもまた様変わりしており、アナエロビック(嫌気性発酵)の文字が当たり前のように並び、ブラジルやペルーのカップオブエクセレンスが主役、コロンビアのナチュラルや発酵を複数回行う生産処理の豆など、これでもかというほどのフレーバーの強度を競うかのようなコーヒーが目白押しで、それをどこでも試飲でき、かつてゲイシャ種が独占していた地位が他の豆に取って代わられているような印象すら受けました。

マンデリンやペルーであっても、フルーティな風味を最大限に引き出すために、ほぼ飲める範囲ギリギリの浅煎り、ミディアムローストのような焙煎度で統一されており、ロースターの身としては生豆の質の向上を喜ぶと共に一種の違和感、危惧のようなものも覚えていました。

そうした意識を持っているのが自分だけではないことを確認できたのが、当初からのお目当て、イベント会場で行われるローストマスターズチームチャレンジの内容でした。

今年のテーマは初の「深煎り」

スペシャルティの世界において浅煎りがメインになって久しいことに対し、トップカッパーの方々も含むところがある、とはいかないまでも、やはり深と浅は両輪であるべきとは強く感じておられたようで、毎日飲みたくなる深煎りというお題での今回のチームチャレンジ。

深めの焙煎に耐えられる高地産のコロンビアトップスペシャルティを9チームがそれぞれ焙煎し、それらの比較、評価をプロのカッパーと集まったオーディエンスがそれぞれ行います。

一口飲んでみての感想は「ん、これは中煎りなのではないかな」

確かに強い酸味は抑えられているし香りも香ばしいのですが、いわゆる深煎りと呼べる焙煎度に達しているコーヒーは1つもありませんでした。そもそもコロンビアは総じて煎り止めのストライクゾーンが狭く、深煎りというよりは中深煎り向きの豆であり、全チームが深煎りよりも中煎り付近に落ち着いたのは自然なことなのですが、それでもやはり浅いという印象が強めでした。データとしては2ハゼに入っているようですが、焙煎時間が10分前後とかなり短いため、実際のハゼの反応や色合いよりも酸が強く出る傾向にあるはずです。

深煎りであっても綺麗な酸は残したい、苦いだけの深煎りは避けたい、というのはどのチームにも共通していたコメントで、全くそのとおりだとは思うのですが、そのラインがかなり手前に来ているという印象は拭えませんでした。

課題の豆がケニアやブルンジだったら、違った傾向になったと思います。深煎りのテーマとコロンビアの取り合わせは実は微妙に噛み合っておらず、典型的なおいしい深煎りを記憶しているロースターの方ほど悩まれたのではないでしょうか。

フルーティやティーライクの浅煎りの鮮烈さと、チョコレートやキャラメルの深煎りの強い旨味。やや出遅れていた深煎りのスペシャルティが浅煎りに追いつけば、ややもすると一般のお客様を置いてけぼりにしがちだったスペシャルティの間口を大きく拡げることができるように感じられてなりません。

パカマラ種を焙煎する機会が増えてきました。グァテマラやニカラグアでもパカマラはカップオブエクセレンスでいくつも上位に入る優良品種で、限定品のトップスペシャルティとして登場することもありますが、本家本元に敬意を払うという意味でも、エルサルバドルはパカマラを定番品として扱うようにしています。

パーカスとマラゴジッペの交配種、名前をくっつけてパカマラですが、マラゴジッペの超大粒の形質を受け継いでいます。小粒の代表であるエチオピアと比べると、そのサイズ差は同じコーヒー豆とは思えないほどです。

広さも厚みもある体躯ですが、味わいや要求される焙煎はとても繊細。華やかで強すぎない酸味と滑らかで重すぎないコクを兼ね備えたエレガントさがあります。強火や短時間焙煎にやや弱く、ただ苦いだけのコーヒーになってしまいがちで、逆にのんびり熱を加えていると味が飛んでスカスカになりやすい。雑味に悩まされることは少ないものの、その絶妙なバランスの風味を引き出すのに苦労します。

現在扱っているエルサルバドルのパカマラはレッドハニーという豆の粘液質を多く残して乾燥させる方法で精製されており、甘みが強くなってより複雑な風味になっています。

近年、マンデリンの特徴であったアーシーな(土のような)風味と独特のボディが薄れてきていると感じることが多くなりました。鼻で感じるアロマはまだアーシーさはあっても、味覚で感じるフレーバーはどこかさっぱりとした明るい酸になっていて、かつてのどっしりとした良い意味でのスモーキーさがあまり無いものが主役になってきています。

原因ははっきりしていて、収穫量に優れ病害に強い品種との掛け合わせによって生まれた交配種がメインになってきたためです。以前、コロンビアがコロンビア種(バリエダコロンビア種)という病害に強い交配種を前面に押し出して、風味の面で評価を落としていたことがあります。その後何度も改良を重ねて優れた品種を生み出しクオリティは上がりましたが、伝統的なティピカやブルボンだけを扱っている国は今やほとんどないでしょう。

昔ながらのアーシーフレーバーを持っているマンデリンかどうかを見分けるには、ティピカかブルボンがどれだけ入っているか、が一つの指標になります。アテンやティムティムといった他の地域では見られない品種や、あるいはカチモールという広く知られた改良品種が多くを占めている銘柄の場合、ボディが軽くすっきりとしたキレのある苦味、やや乾いた印象の風味であることが多い。それ自体は決してマイナスの味ではないのですが、ミルクのような質感を記憶に残している世代にとっては別物と感じてしまいます。

もし、伝統的なコクを残しているマンデリンをお求めで品種の確認が難しい場合は、ティピカが多くを占めているマンデリンのトバコがおすすめです。

カチモール種がメインのマンデリン。昔よりもだいぶ生豆のサイズが小さくなっているような気がします。焙煎するとかなり膨らみますが、それでも驚くほどの大きさだった以前よりは小さいです。

コーヒーの精製方法には大きく分けてナチュラルとウォッシュドがあり、その中間と言えるパルプドナチュラル(ハニー製法)が比較的新しい方法として加わり、この三つがメインになっていましたが、ここ数年で嫌気性発酵(アナエロビックファーメンテーション)という手法が台頭してきました。コーヒーチェリーを酸素が遮断された密閉容器内で発酵させるというもので、酸素を使わない微生物の働きを利用したものです。

C6H12O6 + 6O2 + 6H2O → 6CO2 + 12H2O

化学の教科書などで見たことがあるような無いような有名な好気呼吸の式です。C6H12O6 が糖で、酸素O2があると二酸化炭素CO2と水H2Oが出来ます。細かいところは省略してありますが→の右に行くとエネルギーが生まれて生命活動の源となります。

これが酸素が無い条件下だと、嫌気性微生物の働きにより

C6H12O6 → 2C2H5OH + 2CO2 

C6H12O→ 2C3H6O3

これらの反応が起こります。C2H5OHというのがアルコール(エタノール)でありC3H6O3が乳酸です。

実際にコーヒーのフレーバーを表現するのにラクティク(乳酸のような)という言葉もあり、ヨーグルトや日本酒の風味にも関係しています。それらの風味を狙って強く出すことを目的とした方法でしょう。

   

10月に入ってからこのアナエロビックのナチュラル製法のエチオピアが入荷したのですが、確かに明瞭なアルコールの風味があり、エチオピアは深煎りと浅煎りの両方に耐えられるということもありこの強い個性を打ち出すのに焙煎度で悩みました。カッパーの方もくどさの出ない浅めをおすすめしてくれたのですが、やはり浅煎りは別の銘柄の直球のフルーティ路線で行きたいと思い、このウイスキーのような赤黒い風味を差別化する意味でも深煎りを選択しました。

精製方法というのは工程のどのタイミングで乾燥をさせるか、ということで分類されるのですが、まさか発酵まで入り込んでくるとは思いもしませんでした。土地の個性であるテロワールだけでなく生産者の技術にも個性が出る、焙煎士としても実に面白い時代になったと思います。

コーヒー豆は環境にもよりますが焙煎してから数週間、焙煎前の生豆であれば数年は保存が可能であり、生鮮食品としては非常に計画が立てやすいです。生豆の状態でも徐々に水分や色が抜けていき、風味も変化していきます。収穫されてから数ヶ月以内の生豆をニュークロップ、当年のものをカレントクロップ、前年度のものをパーストクロップ、それよりも前のものをオールドクロップと呼びます。

ニュークロップの味の特徴としては、なんといっても明るさでしょう。まるで果汁を弱炭酸で割ったかのような爽やかさがあり、焙煎によっては草のような風味まで付いてきてしまったりコクが弱くなるといった落ち着きの無さも持ち合わせています。

長期保存が可能なニュークロップを出来るだけ仕入れたいところですが、地球の裏側で収穫された大きなロットのコーヒー豆がはるばる日本に渡ってくるとなると、実際に使われる新しい豆のほとんどは一年程度は経過したカレントクロップということになります。少し味のカドが取れて、扱いやすくなった時期です。

時間が経過した生豆はニュークロップと比べて酸味が出せなくなると言われますが、酸味の強さは豆の力に対する焙煎のやり方で決定するので、一概にそうとは言い切れません。三年ほど経過したオールドクロップといえるエチオピアのサンプルを極浅煎りにしてみたところ、酸味だけはニュークロップの浅煎りに劣らない強さがあり、オールド特有の滑らかさも加わって、別の方向で勝負できる立派なコーヒーが出来上がりました。ニュークロップで同じ焙煎度にしたら、おそらく渋くて飲めないでしょう。焙煎した後に常温で何ヶ月も経ってしまったコーヒーは美味しくありませんが、生豆の状態なら多少枯れていても十分に力を発揮してくれます。

それでもやはりニュークロップの方が優先されるのは仕方のないことで、テロワールが際立つことがオールドとの違いです。テロワールというのはエチオピアならこういう香り、コロンビアのここの地域はこういう味、といった土地や気候などで形成された風味の特徴のことで、味の説明や共有がしやすく、この点に関してはオールドは弱いのです。もともとはワインの用語で、土地の個性に特にこだわってきた歴史があり、コーヒーも農家がそれぞれ個性を打ち出ししのぎを削りあうスペシャルティの時代になってこのワインの考え方に近くなってきているのもニュークロップがより重要視される理由の一つです。

コーヒーは夏場の消費がやや落ちる傾向があり、秋になってから一斉に仕入れるということが多いのですが、それも寒い時期にコーヒーが美味しくなるといわれる理由の一つかもしれません。国ごとに収穫のタイミングが違うのでお米のような明確な端境期があるわけではありませんが、寒い時期になってきたら、数ヶ月前のコーヒーの味の記憶と比べてニュークロップっぽい味がするということもあるかもしれません。

ケニアやタンザニア、エチオピアといったアフリカの豆は高地産の硬い豆が多く、酸味と濃度に優れたフルーティな質感がありキリッとした切れ味が共通していますが、ブルンジにはどこかブラジルやペルーにも似たまろやかさ、丸みもあります。かといって大人しいというわけではなく、バジルのような野生的なフレーバーや豆料理のような独特な香ばしさがあり、どことも似ていない個性を持っています。

このアフリカの高地産系のシャープさと低地産系のどっしり感をあわせ持ったような風味のブルンジが、ナチュラル方式で丁寧に精製されたらどうなるか。予想した通り、ブラジルとエチオピアの中間のような、じっとりとした甘い香り。生豆の状態でチョコレートの香りがしてくるのはちょっと初めてかもしれません。

ナチュラルとしてはバラつきが少なくて火も通りやすく、深煎りにも耐えられるとても扱いやすい豆で、焙煎の進み方もペルーのような素直さがありポイントに当てやすいです。

カップテストしてみると第一印象がまず甘い。甘みのある豆はコクや粘度が強かったり果実感が強かったりと全体的に情報が多いのですが、このブルンジナチュラルは甘味がまず先行してきて甘みで終わります。甘みだけが突出しているというのも割と珍しいバランスで、人にもすすめやすい深煎りに仕上がっています。

フェアトレードや有機認証などによる付加価値だけではなく、カッピング(味の審査)によって点数を付けられるスペシャルティコーヒーは味の水準の高さが保証されており、点数だけで入荷する豆を決めるという焙煎士の方もいます。おいしさにランクが付けられるということに関しては少し疑問や抵抗を感じるという方も多いでしょう。国や銘柄などの個性や好みを探すことは何よりの楽しみであり、消費者側と生産者側が対等な関係になるために必要なシステムの一つだったとはいえ、点数の高低などはいったん別にして考えたいところでもあります。もちろん同点数の中でもその味の個性は星の数ほどあり、銘柄の組み合わせによる品揃えやブレンド、そして何より生豆の質以上に味の決定に占めるウェイトが大きい焙煎の存在を考慮すれば、ランクなど関係無く楽しみ方はさまざまです。

それでもあえてランクごとに分けるとすれば、次のような傾向になると思います。SCAやCOEなど評価する機関によって点数ラインや呼称が少し異なりますがだいたい同じです。

・コマーシャルコーヒー、コモディティコーヒー、メインストリームコーヒー

  • 最も一般的なコーヒー。浅く煎っても酸味が弱く、やや暗い印象がある。香りではなくテイストがナッツに近く、少しスモーキー。

・プレミアムコーヒー

  • 味の暗さが無くなり、豆の個性もはっきりしてくる。スペシャルティを飲み慣れた舌にとってはやや淡い印象があるものの、明確なテイストと軽さが両立している、十分高品質なコーヒー。

・スペシャルティコーヒー

  • プレミアムまでと比べて味の「濃縮度」が明確に異なる。塩味(えんみ)ともチョコレートともとれるテイストの濃さが大きく増す。

・トップスペシャルティ、プレミアムスペシャルティ

  • 透明感がさらに向上したことで、意外なことに焙煎したて、抽出したてのファーストインパクトでは一つ下のスペシャルティよりも少し弱くなった印象を受けることがある。綺麗すぎて、コーヒー液が熱いと捉えにくい風味がメインになってくる。しかし冷めていくにしたがって味の情報がどんどん増え、甘さ、明るさが後になるほど蓄積する。

・トップオブトップ、スーパープレミアムスペシャルティ、特別称号コーヒー

  • 花の香気が加わる。華やか、というよりも本当に花の弁の風味がしてくる。具体的には薔薇、ローズのニュアンスに寄ってくる。それにともなってシロップのようなまとわりつく重みのある甘さが出てくる。

はじめチョロチョロ中パッパ、赤子泣いてもふた取るな、とは古来から言われてきた米炊きのコツですがコーヒーの焙煎となるとこれが当てはまるとは限りません。特に子供にせがまれても最後までフタを取らずに十分蒸らせというのはコーヒー焙煎のセオリーとは正反対であり、終盤は煙かぶりを避けるために排気が最重要になってきます。

またチョロチョロやパッパといった火力を変更すること自体がまず豆に与える影響がかなり大きいです。米よりも粒が大きいコーヒー豆は、焙煎中に豆内部の水分の移動が盛んに起こっており、その移動のサイクル、リズムを上げるにせよ下げるにせよ一度でも変えてしまうと、味の重さがてきめんに現れます。焙煎度の違う豆をブレンドするとたいてい霞んだような濁りが生じますが、そのムラが一粒の豆の内外で起こるわけです。マンデリンのようなコクや量感が強みになる銘柄であればこれが有利に働くこともありますが、浅煎りやシャープな苦味を出したい中煎りだとマイナスが大きいでしょう。

そういうわけで一定火力の焙煎が全てにおいてベターな基本となるわけですが、水分量の多い豆や硬い豆が多いスペシャルティコーヒーでは中火であっても前半、中盤の水抜きが不足することがあります。かといって弱火で通せば排気を強めた終盤の進行速度が大きく落ちてしまってこれも暗い風味になってしまい、また弱火のみの焙煎は優しく飲みやすい味になる反面フレーバーや味の厚みが乏しくなる傾向があります。終始強火で通した焙煎は風味が豊かな分だけ鋭い苦味や雑味につながります。

弱火で水を丁寧に抜いていきたい、でも強火による味の厚みも欲しい、でも途中変更はしたくない、といったジレンマがあるわけです。

そこで、水の移動がほとんど起こっていない時間帯に限り火力を変更したら、という仮説に行きつきました。具体的には焙煎の序盤、100℃以下のまだ豆の変色が起こっていない時間帯と、1ハゼが終わり水分の大半が抜けた後の時間帯です。予熱を低めにとり、最序盤だけ強火をあてます。中盤は中弱火ぐらいで。

一番上の段の右から2番目のあたりですでに変色、脱水は始まっているといえます。それよりも前の段階で火力をいじります。

結果としては、序盤に強火を使った場合、重さのないキレのある苦味が乗り、1ハゼ終了後に強火を使った場合は10日経っても消えない香ばしさと軽さが付加されました。どちらも火力が強すぎた場合はいがらっぽいくどさが残り、強火の時間帯を広げた場合はこもったような重さが出ました。この水分の移動が起こっていない時間帯の火力に一つの希望がありそうです。

ホンジュラスのコーヒーというとそれほど馴染みがないかもしれませんが、スペシャルティコーヒー生産地域の中枢ともいえる中米の一員であり、生産量は世界6位。ブラジルやコロンビア、エチオピアなどのコーヒーの代名詞の国に次ぐ量と、世界トップクラスの質を誇ります。世界最上位ランクの品評会であるカップオブエクセレンスにおいて毎年90点を超える品が10点近く並ぶホンジュラスのレベルの高さは目を引きます。

これはナチュラルの生豆なので色々と皮などが付着していて一見あまり綺麗とはいえませんが、粒がよく揃っており、致命的な欠点豆はほぼ見当たりません。

高地産でありながら浅煎り向きの豆で、さらにナチュラルとなるとどうしても小さな煎りムラが出てしまいますが、試飲してみるとフルーツとチョコレートを混ぜたような不思議な風味。今回のエル・ロブラル農園のものはマスカットやメロンのような青い果実の印象がありました。

試しに焙煎が少し進んでしまった黒い豆と白い豆を分けてそれぞれをテストしてみたところ、チョコレート風味とフルーツ風味で見事に分かれました。通常、煎りムラは液の曇り、重さにつながってしまうのですが、これはむしろぶつからない二つの風味が溶け合っているような感じです。

見た目が汚くてやんちゃな豆面だった昔のモカは強いフレーバーを持っていましたが、このホンジュラスもどこか絶妙な配合で個性を発揮している面白い銘柄だと思います。

キリマンジャロの名でも有名なタンザニアのコーヒーは強い酸味と豊かなボディがあり、ミルクと合わせたときのキャラメルのようなリッチな質感が特徴で、昔から日本でも親しまれてきました。アイスコーヒーにも適したその濃度と量感は、ケニアのAAと比較しても勝るとも劣らないほど豊かなものです。

青々とした大粒豆で丁寧に水抜きをしたいところですが、時間をかけすぎると持ち味の酸味が消えてしまう傾向があり、速さとムラの出ない均一な熱のかけ方が求められます。シワが消える煎り止めのポイントはシティ〜フルシティの間あたり、分かりやすい2ハゼがあるため難しくはないのですが、ダンパーによる圧力は正確に、熱も中火の中火でピタリと合わせて進めたいところです。

このように布を湿らせたようなしっとりとした色の付き方をする豆は強火や弱火をあれこれ使ってこねてしまうと味が重くなってしまいます。一定の中火でササっと通してやるとシャープな透明感が生まれますので、途中変更をなるべくしない、強すぎず弱すぎない焙煎の初期設定が特に大事です。

水抜き不足による味の重さは深煎り、ダークローストだとある程度和らげることもできますが、タンザニアのベストポイントはフルシティ手前、酸味をやや残すところにありますのでそういったごまかしも効きません。煎り止めこそシビアではないものの、総じて焙煎難易度は高い豆だと思います。

デカフェ、カフェインレスのコーヒーを目にすることは珍しくはなくなりましたが、その生産や製造の工程を不思議がる方は多くいらっしゃいます。有機溶媒を使用した抽出方法やウォータープロセスと呼ばれる水による抽出法などいくつかの手段がありますが、どれも生豆の状態で行います。生豆を上手に焼いてカフェインを抜くということは出来ないので、すでにカフェインが抜かれた豆をどれだけ美味しく焙煎するかが焙煎士の仕事ということになります。

スマトラ式のマンデリンやモンスーン製法のインドなど一目で分かるような生豆はいくつかありますが、見た目の個性ではデカフェの右に出るものはいないでしょう。鉱物かなにかに見えるほど枯れた色で、どう焙煎したらいいものか初めてでは全く判断がつきません。

ブラジルのスタンダードなスペシャルティを使用しているということで、シティローストあたりに目星をつけて

煎り止めようとしましたが、色の付き方とハゼのタイミングがかなりズレます。2ハゼに入った瞬間に止めたにもかかわらず、フレンチローストに近い焙煎度になってしまいました。通常の豆と比べてかなり火が入りやすいようです。

カップテストしてみると、風味を維持したまま非常に軽いボディに仕上がっており滑らか。重厚なチョコレートのようなスペシャルティに慣れてしまった舌には、一昔前のプレミアムコーヒーのようなお茶っぽさ、素朴さを思い出させるものでした。コクの弱さがかえって香ばしさを引き立てているような面もあり、スペシャルティにあらねばコーヒーにあらずというような方向に行ってしまいがちな考えを思いとどまらせるような優しさ、飲みやすさがありました。

ブラジルはナチュラルでも強い香気をあまり出さない傾向があります。エチオピアやグァテマラ、コスタリカなどの硬質豆のナチュラルはコーヒーとは思えないようなフルーツフレーバーを持っていますが、ブラジルはどんな高級豆のナチュラルでもどこかナッツ系の大人しい風味に落ち着いています。

ならばナチュラルとしての個性を打ち出すよりも酸味の綺麗なウォッシュトの方が向いていると思ったのですが、ブラジルにおいてはナチュラルとパルプドナチュラルが主流でありウォッシュトは希少。頻繁に仕入れできるものではないため、浅煎り用に絞ってウォッシュトを試してみました。

前半の水抜きの時点ですでにナチュラルとは明らかに様子が違いました。

ブラジルに限らずウォッシュトはナチュラル、パルプドナチュラルと比べて豆が硬く酸味も強くなるようで、このブラジルウォッシュトもまるでケニアやタンザニアのようにシワが消えるのが遅い。以前のように1ハゼが終了したミディアムローストのあたりで止めてみたのですが、けっこう勇気が要りました。

カップテストしてみたところ、想像以上に風味に違いがあります。今までイメージしていたブラジルらしいボディ感や丸みのあるコクではなく、梨やお茶を思わせるような軽さ、明るさに。コスタリカのウォッシュトにやや近い印象を受けました。他の国の豆はウォッシュトの方が透明感がありナチュラルの方が個性が強いことが多いのですが、ブラジルの場合はウォッシュトの方が印象が強いのは面白いところです。

ケニアを焙煎しました。

今までケニアは粒の小さいABグレードを使用していたのですが、華やかで繊細な風味がありながらも昔ながらのケニアらしい力強さに欠ける印象があり、今回から大粒で肉厚のAAグレードに切り替えました。マンデリンのような広くて薄い形の大粒豆ではなく、前後に厚い丸みを帯びた形でありいかにも硬そうな豆面をしています。

大粒かつ高地産の硬質豆なので焙煎前半の水分抜きを丁寧に進める必要がありますが、色付きが分かりやすくムラも出にくいため煎り止めはやりやすい部類に入ります。

2ハゼのピークを過ぎてフレンチローストを超えたあたりまで煎り進めるといかにもケニアらしい、スモーキーさとフルーティーさとが混ざったような力強い香りが漂ってきます。さすが大粒のAAグレードといったところです。

粉にして飲んでしまうのに豆のサイズが何か関係があるの?と思われるかもしれませんが、これが大有りで、小粒より大粒のほうがコクと香ばしさ、良い意味での味の重みで明確に上回る傾向があります。良質の小粒豆はどちらかと言えばフルーティーで爽やかな風味が持ち味で、昔ながらのケニアの太く香ばしいイメージとやや離れてしまっているような気がします。豆の良し悪しにサイズは関係は無いのですが、個性という面では確かに違いがあり、特に深煎り向きの豆に関しては豆のサイズをまず最初に確認するようにしています。

審査員によるカッピング技術が発達し品質の客観的な評価も進んではきましたが、サイズで決めるケニアのAAや産地の標高で決めるグァテマラのSHBなどの旧来のグレード評価は決して曖昧なものではなく、重要なデータであることはスペシャルティの時代になっても変わりません。

浅煎りの煎り止めは難しいです。正確なタイミングが要求される中深煎りのコロンビアとはまた違った難しさがあります。焙煎中、豆は音を立てるハゼが2回起こるのですが、中煎り以上では煎り止めが2ハゼの最中という分かりやすい合図があるのに対し、浅煎りは1ハゼと2ハゼの中間という手掛かりのない時間帯で判断しなければなりません。頼りになるのは温度ですが、それでも豆の内外の焙煎の進行度は微妙にズレますので、温度だけで味を完璧に再現することもできません。

写真は試験用のエルサルバドルの豆で、どちらも同じ火力で進め、同じ温度(191℃)で煎り止めたもの。右の方が明らかに浅く見えます。右は予熱を高めにして短時間で進めたもの、左は予熱低めの長時間のものになります。煎り止め温度が同じでも色付き方が異なることが分かります。1ハゼも左の方が7〜8℃ほど低い温度で起こります。テストしてみるとやはり右の方が酸味がずっと強い。温度でタイミングを取るには生豆の状態や鮮度、気温、予熱や火力など全ての条件が一律に揃わなければならないということです。

となると、最後に頼りになるのはやはり目です。同じ焙煎度の豆を作り続けるには色の判断が最重要であり、そのためには部屋の照明などをいつも同じにして、焙煎の終盤にはテストスプーンを何度も抜き差ししてのぞき込むような格好になります。耳と鼻を総動員するコロンビアなどの中深煎りよりも肩が凝るような焙煎を要求されるので、なるべく体調が良い日に浅煎りに挑戦するようにしています。

半熱風式の焙煎機においては釜を十分に温めておいてある程度内部の温度を高めた状態で豆を投入するのが普通ですが、予熱をゼロでスタートする焙煎方法だと強火であっても弱火であっても「直火」に近い味になります。これは強火だと釜の金属熱が高まると同時に内部の熱風温度も高まり、弱火だと金属熱が上がりにくくても内部の熱風温度も上がりにくいので、どの火力で進めても豆が熱風と金属、二つからもらう熱の割合は同じぐらいになるためです。

ところが釜に大きな予熱が蓄えられていると、火が弱くても内部の温度は高い状態を維持するので熱風の成分が多くなります。

これらの予熱のほかにも焙煎機が持つ「蓄熱性」も考慮しなければなりません。

釜内部の予熱は、焙煎前半こそ火力(金属熱)を超える勢いで豆を加熱していくものの、しだいに蓄えが尽き、後半には火力と内部熱が拮抗する半熱風の状態に戻っていきます。この時、焙煎機の内部の予熱だけではなく、釜の外壁部分も含めた釜全体に蓄えられた熱が内部の温度低下を抑え、熱風焙煎寄りの状態を長く維持しようとします。釜の作りが厚く、蓄熱性が高い焙煎機は弱火であっても焙煎の後半まで早く進めることができます。

浅煎り向きの豆は直火の特徴であるコクや味の厚み、シャープな苦味をあまり求めませんから熱風系の焙煎の方が向いている場合が多く、釜の構造が大きくて蓄熱性の高い海外の焙煎機などは浅煎りメインのロースターには好まれる傾向にあるようです。

店頭などに置いてある焙煎機を見る機会があれば、直火か熱風か、日本産の焙煎機か海外のごつい躯体の焙煎機かを見分けて、味を予想してみるのも面白いかもしれません。

焙煎方法には焙煎機の種類によって直火式、熱風式、半熱風式の3種類に分けられます。

・直火式

豆を入れたドラムにパンチングメッシュの穴があいて網目になっており、豆に直接火が当たる。豆の個性が出やすく風味が豊かになる反面、雑味も出やすい傾向がある。急ぐと焦げてしまうため、少量焙煎向き。

・熱風式

豆やドラムに火を当てず、熱源から発生した熱風で豆を加熱する。均一でムラがなくすっきりした味に仕上げやすいが、風味が弱くなりがち。急激な加熱が可能なため、大量焙煎向き。

・半熱風式

穴の空いていないドラムに火を当て、その火から発生した熱風も送り込む中間型。ドラム内側の面の熱と熱風を組み合わせて豆を加熱する。

半熱風式が特徴のない半端な性能のように見えますが、豆の個性に応じて直火寄りか熱風寄りかの選択ができます。深煎りなので7:3の直火寄りの強めの味にしたい、あるいはブレンド用のすっきりした熱風系の酸味にしたいといった使い分けが可能です。

強火でドラムを加熱すれば熱風の温度も連動して上がり、弱火にすれば下がるので、どちらで進めても直火成分と熱風成分の比は同じになるように見えますが、その比率を変えるのが釜の予熱と焙煎機の蓄熱です。

世界のコーヒー生産において量と質ともにトップクラスのコロンビア。量でこそベトナムに追い抜かれましたが、スペシャルティコーヒーの取り組みにも積極的な世界を代表するコーヒー大国です。

ブラジルと並び最もポピュラーで安定供給されるコーヒー豆ですが、焙煎の難易度が高いことは意外と認知されていません。特に煎り止めがシビアで、シティローストからフルシティローストの境目に酸味系から苦味系に切り替わる瞬間があり、それが非常に短く、ほんの数秒で個性が変化してしまいます。強めの酸味が残ったまま焦げたような苦味が同時に現れて重なり合うような状態になるため、ベストポイントが小さいというよりは、どちらに寄せてもベターポイントで妥協するような感じに近いかもしれません。

渋味を取り除くために細かい黒シワが伸びるまで煎りこむことが基本ですが、中には伸び切ると風味が飛んでしまうものもあります。コロンビアもその一つで、シワが消える数秒手前あたりを狙たいところです。

スペシャルティが広まり品種や農園ごとの個性が際立つ時代になりはしましたが、コロンビアは何を焙煎しても難しく、やはり国ごとの個性というものが変わらないことを再確認させてくれるやりごたえのある相手だと思います。

スペシャルティコーヒーという言葉が生まれてから約40年が経ちますが、それらが一般的に扱われるようになったのはここ10数年、消費者側からある程度認知されるようになったのはここ数年ではないでしょうか。

これまでにも、環境保護や持続可能な社会の実現を目標にした認証コーヒー、あるいは希少性を謳った高付加価値の商品など様々な取り組みがなされてきましたが、スペシャルティコーヒーがそれらと一線を画すのはひとえに官能審査、カッピングという味そのものを評価するシステムが構築されていることでしょう。どんなに優れた生産工程を経て環境保護や安全性に貢献していても、審査員に味ではじかれたモノはスペシャルティとは呼ばれません。質の高い非スペシャルティは多く存在しますが、逆は有り得ないのです。

コーヒーは近代以前のみならず近年まで貧困と切り離せない歴史を辿ってきており、色々と対策がなされてきたはずですが、結局のところ国内であれ国外であれ消費者に対価を高く払ってもらえなければ成り立たないという当然の壁にいつも当たり、環境保護などどんなに有意義な名目があっても一部の富裕層や慈善団体の援助のような形でしか応援ができず限界がありました。世界中の消費者から正当な対価を払ってもらうためには、コーヒー液の味の良さが第一であるというシンプルな道標が提示されることになりました。

その実現のためには「味の共通言語」が必要でした。酸味の質、後味の質、風味を表現するために世界のどこにでもある果実に例える評価方法、そして審査員の育成。それらを生産国から消費国の共通の概念とし、同じ項目が書かれた用紙に記入して評価していきます。それら共通のデータをもとに、これだけ点が低いのだから安く買います、これだけの点を得たのだから高く買ってくださいと交渉がなされ、価格が決められます。おいしさの基準は人それぞれ、という真っ当な価値観は産地を潤わせるという目的には適わなかったわけです。

一方でロースターをはじめコーヒー業界側のこれまでのスペシャルティ宣伝の成果は今ひとつだったかなとも感じています。だいいち、スペシャルティというネーミングにインパクトがない。プレミアムコーヒーや認証コーヒーと何が違うんだという意見はもっともで、味が良いんですよとしか答えられず、今後の売り出し方は大きな課題の一つ。しかしながら「最近、世の中のコーヒーが美味しくなったよね」となんとなく感じていただけるだけでも大きな進歩といえます。

インドといえば紅茶の国と思われていますが、ベトナム、インドネシアに続くアジア3番目のコーヒー生産国であり、品質重視のアラビカ種の生産量においてはアジア最大を誇ります。インド国内の消費も多く、まごうことなきコーヒー大国といえるでしょう。

インドコーヒーの中でも際立った特徴を持つ生産処理の一つに、収穫されたコーヒー豆を数週間もの間、貿易風に当て続けて乾燥させるというものがあります。出来上がった豆は「モンスーンコーヒー」と呼ばれ、コーヒー生豆としてイメージされているグリーンビーンズとはとても呼べない色になります。イエローです。

手ですくっただけですぐに分かるほど豆が軽く、これだけ水分が飛んでしまっていては味もさぞスカスカだろうと思いきや、意外なことにベストポイントは深煎り。フレンチローストをも超え最も深いイタリアン、ダークローストまで煎り上げて真価を発揮します。酸味が一番少ないコーヒーをお求めの方にはいつも最初におすすめしています。

麦のようなフレーバーにシナモンやサフランといった香辛料を乗せたような、またはタルのような木の香り、あるいはビールのような苦味と旨みがあります。共有しやすい味でありながら言語で正確に伝えるのが少し難しい、なんとも言えないエキゾチックな風味です。

もともとはインドからヨーロッパへの船の長旅で風にさらされて出来上がったモンスーンコーヒーですが、今は意図的に貿易風を当ててそれを再現したものになっています。

コスタリカを焙煎しました。

標高の高い山脈が多くコーヒーの生産に適した環境でスペシャルティコーヒーの取り組みにも積極的であり、ウォッシュトとナチュラルの中間の製法であるハニープロセスを生み出した国でもあります。

高地産の硬質豆であり濃度が出やすく酸味の豊かな豆でありながら浅煎り向きという特徴があります。ジューシーというよりはどこかティーライクな、お茶を思わせる爽やかな渋味、滋味があります。

ブレンドでも単体でも使える便利さはありますが、焙煎となるとこの硬さは少しやっかいで、前半の水分抜きが甘いと深めにあげても雑味が出やすくなります。金属的な雑味を取り除いた先に現れる厚みのある酸味はケニアやコロンビアに共通するものがあります。産地の標高が高いほど高級とされるのも、この輪郭のハッキリした高地産特有の酸味が重宝されたからでしょう。

ナチュラル製法といえば以前は豆のバラつきが多く、きれいな酸味に欠け、場合によっては発酵臭がついてしまうといったマイナスのイメージがありましたが、丁寧な管理がなされていればフルーツや酒類のような独特の香気が生まれ、近年ではウォッシュドと併せて生産する農家も増えてきました。特にグァテマラやエチオピアのような高地産のものはその硬い豆質、濃厚な成分と合わさって鮮烈な風味があり、ウォッシュドと比べてやや劣るクリーンさを補って余りある個性があります。

生豆の見た目からしてバラつきがあり、焙煎の進行時も煎りムラが常に見える状態で、均一に仕上げるのは大変なのですが、芯まできちんと火が通り豆の内外の煎りムラさえ起きていなければ、多少バラつきがあっても香気の量で圧倒してしまうほどの力があります。

面白いのはフルーツ系といってもそのタイプが国や地域によって違うところで、青リンゴ、洋ナシのような風味のものもあればストロベリーやピーチに寄っているものもあります。このグァテマラ アルト・デ・メディナ農園のものはパイナップルのようなギラついた明るい酸を感じます。

もともとはココアのような芳醇で丸いビター系のキャラクターを持つグァテマラですが、この果物の風味が合わさったことで複雑な風味に仕上がっています。

コーヒ豆の焙煎においてマンデリンなら深め、キューバなら浅めといったようにそれぞれ個性に応じた焙煎度があります。これを逆にしてしまうとマンデリンは渋く、キューバはスカスカな味になります。まさに本来持っている味、持ち味が発揮されません。マンデリンなら中煎りと深煎りの間ぐらいで少し幅があり、コロンビアなら中深煎りのある点に正確に当てなければならないなどその許容範囲も異なります。

そのレンジが非常に広いのがブラジルで、浅く煎り止めても欠点のある味が出ず、深煎りでもチョコレート系のコクを失わない懐の深さがあります。個性も強くなく調整役としても優秀。ブレンドと呼ばれるものにはたいていブラジルが入っています。生産量だけでなく汎用性においても世界一なのかもしれません。

煎り止めに緊張を強いられることはあまりないものの、難しいのはやはり浅煎りでしょうか。生豆のストレートな個性が出やすい浅煎りでは、ブラジルのバランスの良さがかえって爽やかさを損ねる場合があります。丁寧に焙煎を進めながらも酸味をできるだけ尖らせる意識が求められます。

ハイローストあたりですが、浅煎りの特徴である苦味の無さやナッツ感がきちんと出ているのに酸味が優しいというキャラクターになっています。ほうじ茶にコーヒーの豊かなコクを乗せたような感じで、酸っぱいのも苦いのも苦手という方にもおすすめです。

今回ご紹介するのはスペシャルティコーヒーの火付け役であり、ゲイシャフィーバーを巻き起こし、スペシャルティコーヒーの世界三大農園の一つとも言われるエスメラルダ農園のパナマです。生産性が低く価格が高いゲイシャ種だけではなく、ティピカやブルボンといった堅実な品種の生産においても優れており、今回はスタンダードなスペシャルティであるダイアモンドマウンテンを焙煎しました。

テスト焙煎では焙煎前半からレモンや梨のような淡い果実の香りが感じられ、水分の抜けもよく色の変化も分かりやすく煎り止めがやりやすいという印象。しかしいざカップテストをしてみると、かつてのパナマのイメージにあったやんちゃな酸味が弱く、透明感やクリーンさが際立ったキャラクターになっていました。

これはスペシャルティコーヒーでたびたびある現象で、味の複雑さや厚みは昔よりも増しているのに酸味が飛びやすく、煎り止めの判断の遅さ(オーバーロースト)や長時間の焙煎に弱い豆が多くなっているのです。そして時間を短くしようと急ぐにしてもパナマのように柔らかめで浅煎り向きの豆にはスモークフレーバーが付くような強火はあまり当てたくありません。

そこで釜の予熱を時間をかけて高めにとり、「弱火で早めに」あげるという方法に切り替え、軽さと風味を併せ持つ浅煎りに仕上げました。やはり昔のようなツンとくる酸味にこそなりませんがスペシャルティらしい重層感と雑味の無さは引き出せたかと思います。

パワー勝負ができず、味作りの複雑さが求められるやりがいのある時代になったと思うことにしています。

今年も少しづつではありますが焙煎士ノートを更新していきたいと思います。

ペルーの焙煎をしました。

日本とも関係の深い国ですが、コーヒーとなると一般的にはそこまでイメージのある国ではないかもしれません。赤道に近く、有名なアンデス山脈による標高にも恵まれており、深煎り向きのしっかりしたコーヒーを古くから産出してきました。

キャラクターとしては、味が強くなくブレンドの調整役として優秀でありながらボディ(コク)は強い。主張しない控えめな性格でありながら単体でも迫力が出せるという便利さがあります。

豆は柔らかめで火が通りやすいのに深煎りに向いているという特性があり、粒も大きく煎り上がりが最もきれいな豆の一つです。

このように力が強く個性をひけらかさない豆というのは意外と他では代替が効かず、縁の下の力持ち、困った時のペルーであり消費量は多く、焙煎の頻度は高いです。

そんな堅実で少し無骨な印象だったペルーでも豆を挽くとわずかにフルーティーな香りがするのは、さすがにスペシャルティといったところでしょうか。

コーヒー液の品質を決める工程に生豆、焙煎、保存、抽出がありますが、このうち抽出に関してはお客様のそれぞれのお楽しみ方があり、我々ロースターの領分ではないと思っています。生豆の質と焙煎の出来でほとんどが決まるのは確かですが、意外なほどに頭を悩ませるのが焙煎後の経時変化、エイジングに関してです。

焙煎した直後の豆は炭酸ガスを盛んに放出し、抽出してもぼんやりとしたまとまらない味で、これが数日、一週間、二週間と経つにつれ味が成熟していき、三週間目あたりから緩やかに風味が弱くなっていきます。

お客様の手元に届いてから二週間目ぐらいのピーク時に飲み切っていただくのが理想だなどとなんとなくイメージし、焙煎豆の管理をするのですがこれがなかなか難しい。個性が強くブレンドに使えない豆を焙煎したあとにブレンドだけが集中して売れたり、しばらく売れなかった豆がある時期に集中して出たり、売り切れてしまったり廃棄に追い込まれてしまうなど、うまくいかないものです。

その対策として少量焙煎に挑戦しました。容量ごとに排気のペースや火力、予熱などが異なるため、まさに挑戦といった感じです。

最大5kgの焙煎機で1kgの豆を正確に焙煎するとなると難易度は上がりますが、これにより鮮度の確保だけでなく豆の種類を数多く揃えることも可能になりました。

コーヒーの味の構成要素には、苦味や甘味、酸味といったテイストと、風味、香気といったフレーバーが代表的ですが、もう一つ重要な項目にテクスチャがあります。食感、舌触りのことで、近年ではマウスフィールなどとも。

コーヒーのテクスチャを表現する際に良く使われるのが「乳製品のような」粘性です。これが程よく豊かだとコクがあると言われ、必要以上に多いと重たいコーヒーとなります。程よく削られていれば軽いコーヒー、少なすぎると水っぽいコーヒーとなります。

そしてこの粘性を生み出すのが、焙煎中の排気スピードです。

焙煎の後半は煙がたくさん出ますので排気は基本的にダンパーを開けて強くするのですが、前半の準備段階、豆の水分抜きの工程においてダンパーをどれだけ閉めて排気を制御するかがテクスチャを決めます。閉めていればコクは強く、開けるほど弱くなります。

春先の焙煎がどう狂うかと言えば、味が出ないというよりも味が重くなってしまう症状が多いと思います。気温が上がり排気が弱くなってきた時にそれまでの冬用の設定では排気スピードが足りず、後半の排気も足りずに煙を被って燻り臭いコーヒーになります。

最新型の焙煎機にはこのような外気による影響を避けるために二重のダンパーが設置されているものもあり、成分の多いスペシャルティコーヒーを焙煎する環境は整ってはきていますが、このような失敗による原因の把握はよりよい味作りへの足掛かりとして非常に重要だと思います。

春先から夏にかけては焙煎の調子が狂うと良く言われます。

これは保管状態により生豆自体が温まっており同じ窯の予熱と火力でも焙煎の初期温度が上がってしまい焙煎時間が短くなってしまうことも理由の一つですが、それよりも室内と室外の気温差により煙の排気スピードが変化してしまうことが大きな理由と思われます。空気は温かい所から冷たい所に移動するので、部屋が温かく外が寒い冬場は煙が排気口を通じてどんどん窯から排出され、部屋が涼しく外が暑い夏場はその勢いが弱くなります。

窯出しの際に多くの煙が放出されますが、窓を開けても夏場は換気扇を使わないと容易に部屋から煙が逃げてくれません。ケニアを最大量焙煎した時などは部屋中の天井が真っ白になってしまいます。

この排気の強さが焙煎の味作りに決定的な影響を及ぼします。

一昔前の日本のコーヒー通の定番といえば、ブルマン、ハワイ、モカ、そしてマンデリンでしょう。

この中でブルマンとハワイは価格が突出して高い上に味のタイプとしてはバランス型、強い個性よりは洗練された香りと甘味が持ち味であり、意を決して購入した割には上品すぎて強烈さが無く、拍子抜けしたという話も多かった豆でもあります。

一方で価格がリーズナブルかつガツンとくる個性のマンデリンは幅広く親しまれ、その土のような力強くスパイシーな風味は今では少なくなった愛煙家の嗜好にぴったり合ったものと思われます。

スマトラ式と呼ばれる独特の乾燥方法により、青々とした色に仕上がった生豆は遠くから見てもそれと分かります。

今回のムンテ・ドライミル ドロサングールは優良なマンデリンの産地として有名な北スマトラ州リントン地区の産で、優れた農家の豆が集められ、精選されたものです。さらにインドネシアでも珍しいハウスによる乾燥をスマトラ式で行い気候にも対応、その後も工場に移動して徹底的な選別を経て輸出されます。手元に届いた生豆は、袋を開けて一目でハンドピック(手作業による欠点豆の除去)がほとんど不要であることが分かるほどの完成度です。

しかし焙煎となると従来のマンデリンの曲者ぶりは健在で、特に焙煎の後半の色の着き方が不規則で、シワの出方やツヤを丁寧に見ていかないと煎り止めのタイミングで騙されてしまいます。


焦らずに丁寧に煎り進めていくと

ちゃんと均等に色づいてくれます。

マンデリンらしさが最も出る焙煎度としては中深煎りと深煎りの中間、フレンチローストの手前ぐらいでしょうか。

途中のカメレオンのような色変化に惑わされなければ、煎り止めのタイミング自体はさほどシビアではないと感じます。

エチオピアの浅煎りを焙煎しました。

小粒ながら身が詰まっていて、焙煎前から上白糖のようなしっとりとした甘い香りが漂っています。コーヒーのイメージを覆すような生豆です。

買い付けや輸出の際、生産の透明性に問題があることが多いエチオピアコーヒーの中にあって徹底的なトレーサビリティ(追跡可能性)の実現を掲げているMETAD社のブク農園産であり、産地の標高2000m以上というデータにも納得できる堅そうな豆です。

スペシャルティコーヒーの浅煎りの風味を引き出すのは難しいのですが、この豆は酸味が非常に豊かでストロベリーのような個性的なフレーバーもあり、焙煎に時間をかけても香りや味が消えにくい力強さがあります。

焙煎前半の水抜き、雑味抜きに時間をかけることができ煎り止めを多少冒険 (渋味が出やすいミディアムローストで煎り止め) しても飲みやすいコーヒーに仕上がるので、気難しそうな第一印象の割には扱いやすい豆だと思います。

ブラジルの中煎りを焙煎しました。

世界的にも有名なミナス・ジェライス州のダテーラ農園産です。

ブラジルは生産量の多くをナチュラル製法かハニー製法(パルプドナチュラル)が占めているのですが、産地の標高の低さからくる柔らかい豆質によるものなのか、あるいは気候や管理によるものなのか、ナチュラル特有のフルーツフレーバーがあまり強く出ません。

火が通りやすく焙煎の難易度は高くはないのですが、このナチュラル製法による豆の不均一さがありフレーバーの個性も強くないためにクリーンで明るい味に仕上げるのが意外と難しく、特に浅煎りの爽やかな酸味を引き出すのに苦労します。

今回は中煎りから中深煎り(シティローストからフルシティロースト)あたりで煎り止め、甘味重視のブラジルの素直な風味になったと思います。

全てのブレンドの基本となるアイテムなので最も品質チェックの頻度が高く、全体の調整役でもあります。コロンビアならブラジル中煎りよりわずかに深く、モカならわずかに浅いといったように、煎り止めの際に他の豆と見比べる基準になります。

こちらから焙煎の様子を発信していきたいと思います。