焙煎士ノート

コスタリカを焙煎しました。

標高の高い山脈が多くコーヒーの生産に適した環境でスペシャルティコーヒーの取り組みにも積極的であり、ウォッシュトとナチュラルの中間の製法であるハニープロセスを生み出した国でもあります。

高地産の硬質豆であり濃度が出やすく酸味の豊かな豆でありながら浅煎り向きという特徴があります。ジューシーというよりはどこかティーライクな、お茶を思わせる爽やかな渋味、滋味があります。

ブレンドでも単体でも使える便利さはありますが、焙煎となるとこの硬さは少しやっかいで、前半の水分抜きが甘いと深めにあげても雑味が出やすくなります。金属的な雑味を取り除いた先に現れる厚みのある酸味はケニアやコロンビアに共通するものがあります。産地の標高が高いほど高級とされるのも、この輪郭のハッキリした高地産特有の酸味が重宝されたからでしょう。

ナチュラル製法といえば以前は豆のバラつきが多く、きれいな酸味に欠け、場合によっては発酵臭がついてしまうといったマイナスのイメージがありましたが、丁寧な管理がなされていればフルーツや酒類のような独特の香気が生まれ、近年ではウォッシュドと併せて生産する農家も増えてきました。特にグァテマラやエチオピアのような高地産のものはその硬い豆質、濃厚な成分と合わさって鮮烈な風味があり、ウォッシュドと比べてやや劣るクリーンさを補って余りある個性があります。

生豆の見た目からしてバラつきがあり、焙煎の進行時も煎りムラが常に見える状態で、均一に仕上げるのは大変なのですが、芯まできちんと火が通り豆の内外の煎りムラさえ起きていなければ、多少バラつきがあっても香気の量で圧倒してしまうほどの力があります。

面白いのはフルーツ系といってもそのタイプが国や地域によって違うところで、青リンゴ、洋ナシのような風味のものもあればストロベリーやピーチに寄っているものもあります。このグァテマラ アルト・デ・メディナ農園のものはパイナップルのようなギラついた明るい酸を感じます。

もともとはココアのような芳醇で丸いビター系のキャラクターを持つグァテマラですが、この果物の風味が合わさったことで複雑な風味に仕上がっています。

コーヒ豆の焙煎においてマンデリンなら深め、キューバなら浅めといったようにそれぞれ個性に応じた焙煎度があります。これを逆にしてしまうとマンデリンは渋く、キューバはスカスカな味になります。まさに本来持っている味、持ち味が発揮されません。マンデリンなら中煎りと深煎りの間ぐらいで少し幅があり、コロンビアなら中深煎りのある点に正確に当てなければならないなどその許容範囲も異なります。

そのレンジが非常に広いのがブラジルで、浅く煎り止めても欠点のある味が出ず、深煎りでもチョコレート系のコクを失わない懐の深さがあります。個性も強くなく調整役としても優秀。ブレンドと呼ばれるものにはたいていブラジルが入っています。生産量だけでなく汎用性においても世界一なのかもしれません。

煎り止めに緊張を強いられることはあまりないものの、難しいのはやはり浅煎りでしょうか。生豆のストレートな個性が出やすい浅煎りでは、ブラジルのバランスの良さがかえって爽やかさを損ねる場合があります。丁寧に焙煎を進めながらも酸味をできるだけ尖らせる意識が求められます。

ハイローストあたりですが、浅煎りの特徴である苦味の無さやナッツ感がきちんと出ているのに酸味が優しいというキャラクターになっています。ほうじ茶にコーヒーの豊かなコクを乗せたような感じで、酸っぱいのも苦いのも苦手という方にもおすすめです。

今回ご紹介するのはスペシャルティコーヒーの火付け役であり、ゲイシャフィーバーを巻き起こし、スペシャルティコーヒーの世界三大農園の一つとも言われるエスメラルダ農園のパナマです。生産性が低く価格が高いゲイシャ種だけではなく、ティピカやブルボンといった堅実な品種の生産においても優れており、今回はスタンダードなスペシャルティであるダイアモンドマウンテンを焙煎しました。

テスト焙煎では焙煎前半からレモンや梨のような淡い果実の香りが感じられ、水分の抜けもよく色の変化も分かりやすく煎り止めがやりやすいという印象。しかしいざカップテストをしてみると、かつてのパナマのイメージにあったやんちゃな酸味が弱く、透明感やクリーンさが際立ったキャラクターになっていました。

これはスペシャルティコーヒーでたびたびある現象で、味の複雑さや厚みは昔よりも増しているのに酸味が飛びやすく、煎り止めの判断の遅さ(オーバーロースト)や長時間の焙煎に弱い豆が多くなっているのです。そして時間を短くしようと急ぐにしてもパナマのように柔らかめで浅煎り向きの豆にはスモークフレーバーが付くような強火はあまり当てたくありません。

そこで釜の予熱を時間をかけて高めにとり、「弱火で早めに」あげるという方法に切り替え、軽さと風味を併せ持つ浅煎りに仕上げました。やはり昔のようなツンとくる酸味にこそなりませんがスペシャルティらしい重層感と雑味の無さは引き出せたかと思います。

パワー勝負ができず、味作りの複雑さが求められるやりがいのある時代になったと思うことにしています。

今年も少しづつではありますが焙煎士ノートを更新していきたいと思います。

ペルーの焙煎をしました。

日本とも関係の深い国ですが、コーヒーとなると一般的にはそこまでイメージのある国ではないかもしれません。赤道に近く、有名なアンデス山脈による標高にも恵まれており、深煎り向きのしっかりしたコーヒーを古くから産出してきました。

キャラクターとしては、味が強くなくブレンドの調整役として優秀でありながらボディ(コク)は強い。主張しない控えめな性格でありながら単体でも迫力が出せるという便利さがあります。

豆は柔らかめで火が通りやすいのに深煎りに向いているという特性があり、粒も大きく煎り上がりが最もきれいな豆の一つです。

このように力が強く個性をひけらかさない豆というのは意外と他では代替が効かず、縁の下の力持ち、困った時のペルーであり消費量は多く、焙煎の頻度は高いです。

そんな堅実で少し無骨な印象だったペルーでも豆を挽くとわずかにフルーティーな香りがするのは、さすがにスペシャルティといったところでしょうか。

コーヒー液の品質を決める工程に生豆、焙煎、保存、抽出がありますが、このうち抽出に関してはお客様のそれぞれのお楽しみ方があり、我々ロースターの領分ではないと思っています。生豆の質と焙煎の出来でほとんどが決まるのは確かですが、意外なほどに頭を悩ませるのが焙煎後の経時変化、エイジングに関してです。

焙煎した直後の豆は炭酸ガスを盛んに放出し、抽出してもぼんやりとしたまとまらない味で、これが数日、一週間、二週間と経つにつれ味が成熟していき、三週間目あたりから緩やかに風味が弱くなっていきます。

お客様の手元に届いてから二週間目ぐらいのピーク時に飲み切っていただくのが理想だなどとなんとなくイメージし、焙煎豆の管理をするのですがこれがなかなか難しい。個性が強くブレンドに使えない豆を焙煎したあとにブレンドだけが集中して売れたり、しばらく売れなかった豆がある時期に集中して出たり、売り切れてしまったり廃棄に追い込まれてしまうなど、うまくいかないものです。

その対策として少量焙煎に挑戦しました。容量ごとに排気のペースや火力、予熱などが異なるため、まさに挑戦といった感じです。

最大5kgの焙煎機で1kgの豆を正確に焙煎するとなると難易度は上がりますが、これにより鮮度の確保だけでなく豆の種類を数多く揃えることも可能になりました。

コーヒーの味の構成要素には、苦味や甘味、酸味といったテイストと、風味、香気といったフレーバーが代表的ですが、もう一つ重要な項目にテクスチャがあります。食感、舌触りのことで、近年ではマウスフィールなどとも。

コーヒーのテクスチャを表現する際に良く使われるのが「乳製品のような」粘性です。これが程よく豊かだとコクがあると言われ、必要以上に多いと重たいコーヒーとなります。程よく削られていれば軽いコーヒー、少なすぎると水っぽいコーヒーとなります。

そしてこの粘性を生み出すのが、焙煎中の排気スピードです。

焙煎の後半は煙がたくさん出ますので排気は基本的にダンパーを開けて強くするのですが、前半の準備段階、豆の水分抜きの工程においてダンパーをどれだけ閉めて排気を制御するかがテクスチャを決めます。閉めていればコクは強く、開けるほど弱くなります。

春先の焙煎がどう狂うかと言えば、味が出ないというよりも味が重くなってしまう症状が多いと思います。気温が上がり排気が弱くなってきた時にそれまでの冬用の設定では排気スピードが足りず、後半の排気も足りずに煙を被って燻り臭いコーヒーになります。

最新型の焙煎機にはこのような外気による影響を避けるために二重のダンパーが設置されているものもあり、成分の多いスペシャルティコーヒーを焙煎する環境は整ってはきていますが、このような失敗による原因の把握はよりよい味作りへの足掛かりとして非常に重要だと思います。

春先から夏にかけては焙煎の調子が狂うと良く言われます。

これは保管状態により生豆自体が温まっており同じ窯の予熱と火力でも焙煎の初期温度が上がってしまい焙煎時間が短くなってしまうことも理由の一つですが、それよりも室内と室外の気温差により煙の排気スピードが変化してしまうことが大きな理由と思われます。空気は温かい所から冷たい所に移動するので、部屋が温かく外が寒い冬場は煙が排気口を通じてどんどん窯から排出され、部屋が涼しく外が暑い夏場はその勢いが弱くなります。

窯出しの際に多くの煙が放出されますが、窓を開けても夏場は換気扇を使わないと容易に部屋から煙が逃げてくれません。ケニアを最大量焙煎した時などは部屋中の天井が真っ白になってしまいます。

この排気の強さが焙煎の味作りに決定的な影響を及ぼします。

一昔前の日本のコーヒー通の定番といえば、ブルマン、ハワイ、モカ、そしてマンデリンでしょう。

この中でブルマンとハワイは価格が突出して高い上に味のタイプとしてはバランス型、強い個性よりは洗練された香りと甘味が持ち味であり、意を決して購入した割には上品すぎて強烈さが無く、拍子抜けしたという話も多かった豆でもあります。

一方で価格がリーズナブルかつガツンとくる個性のマンデリンは幅広く親しまれ、その土のような力強くスパイシーな風味は今では少なくなった愛煙家の嗜好にぴったり合ったものと思われます。

スマトラ式と呼ばれる独特の乾燥方法により、青々とした色に仕上がった生豆は遠くから見てもそれと分かります。

今回のムンテ・ドライミル ドロサングールは優良なマンデリンの産地として有名な北スマトラ州リントン地区の産で、優れた農家の豆が集められ、精選されたものです。さらにインドネシアでも珍しいハウスによる乾燥をスマトラ式で行い気候にも対応、その後も工場に移動して徹底的な選別を経て輸出されます。手元に届いた生豆は、袋を開けて一目でハンドピック(手作業による欠点豆の除去)がほとんど不要であることが分かるほどの完成度です。

しかし焙煎となると従来のマンデリンの曲者ぶりは健在で、特に焙煎の後半の色の着き方が不規則で、シワの出方やツヤを丁寧に見ていかないと煎り止めのタイミングで騙されてしまいます。


焦らずに丁寧に煎り進めていくと

ちゃんと均等に色づいてくれます。

マンデリンらしさが最も出る焙煎度としては中深煎りと深煎りの中間、フレンチローストの手前ぐらいでしょうか。

途中のカメレオンのような色変化に惑わされなければ、煎り止めのタイミング自体はさほどシビアではないと感じます。

エチオピアの浅煎りを焙煎しました。

小粒ながら身が詰まっていて、焙煎前から上白糖のようなしっとりとした甘い香りが漂っています。コーヒーのイメージを覆すような生豆です。

買い付けや輸出の際、生産の透明性に問題があることが多いエチオピアコーヒーの中にあって徹底的なトレーサビリティ(追跡可能性)の実現を掲げているMETAD社のブク農園産であり、産地の標高2000m以上というデータにも納得できる堅そうな豆です。

スペシャルティコーヒーの浅煎りの風味を引き出すのは難しいのですが、この豆は酸味が非常に豊かでストロベリーのような個性的なフレーバーもあり、焙煎に時間をかけても香りや味が消えにくい力強さがあります。

焙煎前半の水抜き、雑味抜きに時間をかけることができ煎り止めを多少冒険 (渋味が出やすいミディアムローストで煎り止め) しても飲みやすいコーヒーに仕上がるので、気難しそうな第一印象の割には扱いやすい豆だと思います。

ブラジルの中煎りを焙煎しました。

世界的にも有名なミナス・ジェライス州のダテーラ農園産です。

ブラジルは生産量の多くをナチュラル製法かハニー製法(パルプドナチュラル)が占めているのですが、産地の標高の低さからくる柔らかい豆質によるものなのか、あるいは気候や管理によるものなのか、ナチュラル特有のフルーツフレーバーがあまり強く出ません。

火が通りやすく焙煎の難易度は高くはないのですが、このナチュラル製法による豆の不均一さがありフレーバーの個性も強くないためにクリーンで明るい味に仕上げるのが意外と難しく、特に浅煎りの爽やかな酸味を引き出すのに苦労します。

今回は中煎りから中深煎り(シティローストからフルシティロースト)あたりで煎り止め、甘味重視のブラジルの素直な風味になったと思います。

全てのブレンドの基本となるアイテムなので最も品質チェックの頻度が高く、全体の調整役でもあります。コロンビアならブラジル中煎りよりわずかに深く、モカならわずかに浅いといったように、煎り止めの際に他の豆と見比べる基準になります。

こちらから焙煎の様子を発信していきたいと思います。