今年もSCAJに行ってきました。
数年前からコーヒー豆価格が高騰を続け、特にここ1、2年は歴史的な跳ね上がりを見せ、5年前と比べて2倍をゆうに超える値が当たり前になってしまっているという強い逆風にも関わらず、去年の3割増しの96000人が来場するという大盛況。会場を移動していてもその違いがはっきりわかるほどの混雑ぶりで、それを見越していたのか会場も大きなホール2つをフルに使うという備え。4日間というスケジュールもすっかり定着してきました。
カッピングセミナーにも参加し、ブースでもカッピングがあったり、また混雑しているからなのか一杯ごとに飲める量も少し減らされているような感じがあり、それがかえって多く試飲できることに繋がったりと、とにかく多くの種類を体験出来る1日でした。
初めて聞く品種名やベネズエラなど珍しいものもありましたが、基本的にはラインナップは今までとは大きくは変わっていませんでした。そうした中で一つ際立って感じたのが、アナエロビック(嫌気性)の豆が強い、ということです。
10年ほど前から登場し、5年ほど前から注目されるようになった製法ですが、当初は乳酸、漬物の風味、発酵感が強いということでかなり好みが分かれていた、イロモノ扱いだったように思います。ところがこれがだいぶ洗練されてきていて、個性の強度はそのままに、他の製法と比べても遜色が無いぐらいにクリーンな印象になりつつあります。並べてカッピングすると風味の強さが一目瞭然で、かつクセが無くなってきているとくれば、扱いが大きくなるのも当然と言えます。トップクラスのブラジルのカッピング会に参加したのですが、10種類以上の豆のほぼ全てがアナエロビックで唖然としました。色々なブースに回っても、多くの種類の試飲を行っている所はたいていアナエロビックが一つは置いてあるような印象で、インフューズのような裏技的な位置付けにされることはもうないようです。
また、例年見に行っているローストマスターズチームセッションですが、こちらは焙煎の傾向の固定化が続いているようでした。ハイレベルでまとまりながらも、目指す味が基本的にどのチームも同じで、浅煎りであったり中庸なブレンドであったりとテーマを変えて細部に違いをつけても、やり方がだいたい同じです。特に顕著な傾向として挙げられるのが、長時間焙煎がここ数年間全チームを見渡しても、ただの一つもお目にかかれない、ということです。長時間と言っても30分も40分もかけるということではなく、15分から20分という普通のロースターなら当たり前に見られた長さが、一切全く無いのです。短時間焙煎で少し刺激があるけどフレーバーが鮮明であるとか、特徴は弱いけどボディがあって毎日飲みたくなるコーヒーであるとか、そういった個性があって然るべきではありませんか。そのような煎り分けを目指すということは以前から課題として挙がっていましたが、それでもずっとセオリーの大枠が同じなので、同じにしか感じません。
20分焙煎で味が悪くなるということは決してありませんし、極端なことを言えば、奇抜な焙煎をして結構変な味になってしまった、というチームが一つぐらいあっても良いではないでしょうか。そういった面白さ、完璧ではない焙煎の中に重要な情報が埋もれていることだってあるのです。そしてこの統一された短時間焙煎のコーヒーは、今年のテーマである毎日飲みたくなるようなコーヒーに合致しているとはあまり思えない、華やかで酸味が明るく、ボディは控えめで冷めると弱い渋味を放つという特徴で全て共通していました。何年か前に深煎りがテーマになったことがあったのですが、全てのチームのコーヒーが明確に酸味を残していたことを覚えています。つまり優れた焙煎方法が確立されてしまったことで、それ以外の優れた焙煎方法が入り込む余地が無くなってしまっている状況です。
やはりロースターとしては、質の高い豆を揃えている会場で本当に深煎りと言える深煎りを飲みたいというのが願いです。