火力と味の輪郭
焙煎をやっていると、他所の優良コーヒーを飲む際、美味しいという感想よりも先にこういう味がするから焙煎の傾向は云々といった要素を分析する癖がついてしまうものです。
先日、あるコーヒーを出先で飲んだところ、クリアーさでは自分の焙煎の方がまさっているななどといい気になりながらも、非常にクッキリとした味、シャープさに驚かされました。今現在の自分の焙煎はこれに比べると味の枠、ふち取り、輪郭が弱い、という印象を受けます。風味があり酸や甘み、コクが豊かであっても、質感がポヤっと浮いたような頼りなさがついてまわります。
この傾向の違いには覚えがあって、焙煎の前半の火力の高さがこういうシャープさを生み出すのです。前半のROR、温度上昇率、焙煎の速さではなく、火力の強さです。半熱風式の焙煎機を使っているので、火力というのはつまり熱風の強さのことです。予熱が少なく、前半に時間がかかったとしても前半が中火〜強火ならこの質感が表れ、予熱、蓄熱が多く焙煎時間が短かったとしても、前半が弱火だとシャープ系ではなくなります。
中盤付近だと少量の豆に最高火力を当てても味が崩れないのに、序盤では火力を少しいじるだけで明確に味が変化するのは実に不思議です。豆がまだ固く、水分を含んでいる状態だと熱風に敏感に反応する何かがあるのでしょうか。
前半の強火と前半の十分な時間をかけた水抜きというのはトレードオフの関係で完全に共存させることは出来ないので、色の濃い豆は強火をある程度諦め、軽い豆は水抜きを多少妥協する、といったように状況に応じてアナログ的に変化をつけるしかないかもしれません。水分が抜け始めてくる100℃付近まで中火で、それ以降は極めて弱火で水を抜き、後半は中火、といった操作でシャープさと水抜きがオーバーラップしている範囲を大きくすることも可能ですが、それでもどちらかに特化した焙煎の個性の強さには及びません。
火力を変えずに排気の操作のみで味の再現性を確保する、という焙煎の基本が思い起こされます。悩むことはあっても大きく崩れないからこそ、安心してアクロバットなテクニックに挑戦できていることに感謝せねばならないと思っています。