焙煎初期の排気
焙煎は終わりに近づくほど豆の反応が激しくなり、最後の煎り止めなどは5秒、10秒を争うほどシビアですが、では焙煎の初期はそれほど厳しくはないかと言えば、そうでもありません。
火力でも予熱でも最初の部分だけ変化させれば、味も大きく変化しますが、特に不思議なのが序盤の排気(風速)です。まだ硬いグリーンビーンズで、水分が抜け始める色合いにもなっていない状態なのに、排気を2分ほど変化させただけでかなり変わります。それも中盤や後半に排気を変化させた場合と比べて、また違う方向に味が変わります。
初期においては特にダンパーの閉め過ぎ、排気が弱過ぎた場合に、少し面倒な結果になります。焙煎してから2〜3日は、しっとりとしたコクのある質感になるのですが、もう少し経つと焦げたようなトーンの低い苦味がのってきます。わずかですが、胃にくるようなクドさも生まれてしまいます。
一方で、開け過ぎた場合では、それほどネガティブな味は入ってきません。少し抜けたような物足りなさはあるものの、飲みやすさは損なわれず、継時変化も良好です。
それならば序盤に限りなんとなくダンパーを開け気味にしておけば間違いは無いのでは、ということになりますが、閉め具合がピシャリと合った時の風味の素晴らしさは妥協したくないところでもあります。開けるより閉める方がリスクが高いのですが、閉めない限り理想的な量感のある味は出せません。安全圏である開け気味の位置から閉めていって、バランスが急に崩れる境界線の一歩手前が狙うべき一点ということになります。開閉度が正確な位置に近づくほど、絶妙な高級感をまとうようになります。リッチだとかエレガントだとかノーブルだとか横文字の表現の方がしっくりくるのですが、上品な重厚感といいますか、分厚いのに明るいというある種独特の質感になっていきます。
気温や湿度、風の強さ、メンテナンスからの期間など様々な要因で排気、風速が変化するので、正確無比な一点を再現し続けるのは至難の業ですが、それでも常に80点以上は狙って出せるように努力していきたいと思います。