熱量と風速

焙煎の出来を決める重要な項目は火力と排気ですが、最近この言葉がどうも相応しくないように思えてきました。熱量と風速と呼ぶのが的確だと思えます。季節の変わり目に焙煎が狂う大きな原因が排気速度の変化ですが、見ただけではどの程度狂ったのかを確かめる方法が無い。今までは予熱を開始する時に、ある一定の火力で、焙煎機内のある温度(50℃あたり)の時点で投入口を開け、そこに手をかざしてダンパーを閉めていき跳ね返ってくる空気を感じた時の目盛りでその日の排気をはかっていたのですが、焙煎中に温度が上がり後半になるにつれ、空気が跳ね返ってくる目盛りが焙煎ごとにまちまちになることが頻繁にあり、どうにも判断に困っています。

焙煎中は庫内こそ季節の気温差を無視できそうなほどの高熱ですが、煙突までの管は外に近くなるほど温度は低くなり、途中の部分は手で触ることが出来る程度の熱さなので、外気温が夏と冬の差である30℃も違えば、排気速度は明確に変わります。ダンパーの目盛りが9段階のうち3から3.5まで変われば別物の味になり、条件によって0.2〜0.5は変化するので、これが日毎ならともかく一回の焙煎ごとにブレるとなると、正確な値を押さえるのは困難です。焙煎機の内側に堆積した塵によっても排気力は下がりますが、メンテナンス、オーバーホールは重労働なので頻繁に行うこともできず、詰まり具合で排気を調整する必要もあります。

最新型の焙煎機では様々なデータが自動で取れるようになっていますが、排気に関する項目が「圧力」になっているのが惜しいところです。圧力というのは火力を上げるほど高まり、またダンパーを閉めるほど高まりますが、これは風速とは重なる部分がありつつも、別個の項目です。風速は火力によって進んでいく風速とダンパーの閉めによって返ってきた風速とで相殺された合力であり、同じ閉め具合なら進む風速が強いほど返ってくる風速も強くなるので、火力を上げても最終的な風速は大きくは変化しないはずです。火力を変化させ、圧力を変えてもダンパーの閉め具合によって同じ味が再現されることは確認していますので、やはり焙煎機の外からの「引き」の強さとダンパーの閉め具合で決まる風速が味作りの大きな部分を占めていると思います。この風速を計測する方法を別に用意した方がよさそうです。

ところで火力ですが、これも熱量、あるいはROR(温度上昇率、速度)の方が焙煎においては重要な言葉になると思います。少量の豆に一定時間最大の火力を当てるという大変な火力オーバーと思われる焙煎をしてみたところ、焙煎機の蓄熱が非常に少なかったために標準的な速度で進んでいき、味が崩れなかったことがあります。これは熱風式に寄った焙煎ということになりますが、RORさえ正常の範囲に収まっていれば火それ自体は焙煎に大きな影響を与えない、ということでもあります。