ハイチ

ハイチにコーヒーというイメージはあるでしょうか。一昔前ならば知る人ぞ知る、一定のファンがいるコーヒーでした。マンデリンやモカを横目にハイチをリピートするといった、通好みの一つに位置付けられていたものです。

風味の特徴は焙煎度の許容範囲が広い中煎り向きで、苦味も酸味もほどほどでナッツのような香ばしいアロマにほどよいコクと、かえって珍しい中庸の中の中庸という個性。コーヒー豆を初めて購入するという方からは、苦味も酸味も苦手という声がよくあり、どの豆をおすすめにするか困ることがあります。多くのラインナップを見渡してみると、世界のコーヒーというのは改めて個性派ばかりで、偏りのない優しい味わいというのは意外と少ないことが分かります。ブラジルがその役割を担えそうですが、それでも等級の低いものは少し重い苦味が、高いものは少しフルーティーに寄りがちで、何よりブラジルは有名すぎることが無難な感じがしてしまってこれも意外と最初は薦めづらかったりします。このハイチこそ一番「真ん中」あたりのコーヒーという名目で薦められるポジションとなっています。

歴史的に見ても世界のコーヒーを牽引してきたハイチですが、近年は度重なる災害や政情不安によって生産を後退させており、特にここ数年は日本で見る機会がかなり減ってきています。豆の品質においても、落ちているというわけではないようですが、かつてのハイチの生豆の表面に見られた産毛が生えているかのようなエネルギーがどうも感じられません。バランスが良くてとても美味しいのですが、分かりやすかったナッツフレーバーは弱くなってしまったように感じます。進歩を重ねながらも、一口でそれと分かるものが薄くなってしまったこの寂しさは、近年のマンデリンにも通じるものがあります。

煎り止めはシビアではないのですが、シワが伸びるタイミングが昔よりも少し遅い。豆の密度が高くなっていて、それによって軽い香ばしさを出しにくくなっているのかもしれません。

現在のハイチは混迷を極めており、今後のコーヒーの行方も不透明ですが、是非とも立ち直ってかつての誇りを取り戻していただきたいです。