SCAJ2024
今年もSCAJに行ってきました。
今年の来場者数も昨年以上で、毎年規模を拡大しているようです。特に小規模事業者のエリアであるCoffee Villageの伸び幅が大きく、ロースターとしては益々刺激を受ける環境になっています。
一方で、これも昨年と同じなのですが、新しい品種や精製方法など目新しい情報は少なく、優れた農園の登場といったニュースにとどまります。今年の主な関心は、新しい技術ではなく、原材料価格高騰によるスタンダード豆の価格交渉、商談がメインでした。試飲よりも取引先の価格表を見たり、世間の相場を確かめたり、数字ばかり追いながら会場を回ることは、それはそれで有意義でもあり、むしろ業者としては本来の姿であり、今までが一般のお客さんのようなスタンスで楽しんでいたのかもしれません。
コーヒー豆全体の高騰はどうしようもないのですが、素直に上がるがままの豆もあれば、なんとかして抑えようとする動きもあります。保存、管理を徹底し、年月が経ってしまっても美味しく飲める豆を安く。言うなればアウトレットのことなのですが、フルーティー系、酸味系ではないコーヒーの場合これがなかなか悪くない。一昔前にあえて枯らせるオールドクロップがもてはやされましたが、今思い出せば、きちんと管理されたものであれば、地味な味わいではあるけれど十分美味しかった記憶があります。オールドはともかくとしてもパースト程度なら焙煎次第で十分力強いコーヒーに仕上げることが出来ます。高価格帯と低価格帯で二極化が進んでいる印象ですが、クオリティは値段ほどの開きは感じませんので、組み合わせてこの難しい時代を乗り越えていこうと思います。
ローストマスターズチームチャレンジ(今年からローストマスターズチームセッションに名称変更)も例年通り開催。今年から審査員賞やオーディエンス賞が無くなり、焙煎のやり方と結果としての風味がどのように結びつくのかをより吟味する路線に向かいました。
お題の豆はケニア。例によってエントリー豆の全てが浅煎りで、プロファイルも全て超短時間焙煎で統一されており、正直なところ全チームの味の大きな違いは感じられませんでした。全てハイレベルなのですが、長所も短所も共通しており、得点を競う例年の方針から個性や議論に舵を切った今年の方針にあまり合っておらず、やや首を傾げる面はあります。ただフレーバーの華やかさや明るさが際立っていることも確かで、多くのロースターがこれを基本とする理由も理解できます。ここは虚心?に、優れた部分を盗んで(導入して)いこうと公表されたプロファイルのグラフを眺めていました。
見ていて気づいたのが、超短時間の割には終盤の速度は普通ということです。つまり火力は普通、短いのは予熱が高く前半と中盤が早いからということになりますが、ならば前半の水抜きを犠牲にしなければあの華やかさは出ないのかと思い、中盤の温度上昇率、RoRを確認してみたところ、1分で12、3度上昇という超高速であるということが分かりました。そんなことグラフをざっと眺めていればすぐに分かるだろうと言われそうですが、これは総焙煎時間を見た時の印象以上の短さです。終盤が遅めで全体が短いのですから終盤以外が超高速ということになるわけです。以前の認識なら御法度の速度ですが、実際には水抜き不足と思われる多少の雑味がある場合はあれど美味しいコーヒーに仕上がっている。ここで中盤に限り短時間はかなり極端でも許されるという仮説に辿り着きました。
こうして前半の水抜きと中盤の短時間と後半の抑制をなんとかして組み合わせたところ、かねてより得意としていたボディが強めの焙煎法に、ローストマスターズの焙煎のような明るい酸を融合させることに成功しました。
以前であれば、参加したオーディエンスの人たちはこんな味が好きなのか、こういう味がカッピングで高評価されるのかといった周囲の反応ばかり気にしていたのですが、今年は今までで一番自身の焙煎において影響を受けた大会となりました。やはり学び取る姿勢は維持しなければならないと思った次第です。