焙煎終盤の火力

安定した焙煎には特に後半の中火、適切なROR(温度上昇率)が原則ですが、風味の強い豆の個性を引き出したり重さを避けた仕上がりにしようとするとどうしても中盤からある程度の強火が要求されます。130〜150℃あたりで豆から緑色が無くなり黄色になり切ってからクライマックスである180℃前後の1ハゼに入るまで、この間の進行が遅いと、味がボヤけるだけでなく生っぽさ、渋みが前面に出てきてしまいます。焙煎に馴染みのない方にとっては少し意外に思われるかもしれませんが、味のキレ、明るさは一定以上の強火で保証されるものなのです。ガス圧を乱される猛暑日には何度か苦しめられたところです。

ところが、1ハゼ以降の進行が早いと余計な苦味がのってしまうという問題がここで立ち塞がります。ミディアムローストの浅煎りで止めてもこの範囲には入ってしまいます。温度上昇は急には止まれないので、ハゼてから少し下げるぐらいでは間に合いません。それ以前に、水分の変化が激しい時点での火力の途中変更は味の重みに繋がってしまうというもう一つの問題もあります。ピンクブルボンなど硬くてフルーティーな風味を持つ豆はこの早さによる苦味に特に弱いようで、個性が完全に破壊されてしまいます。

よって、中火による中時間焙煎がハズレの無い基本ということになります。

しかし、やはり高火力による強い風味と香りを半減させるのは惜しい。

これを解決するにはどうしたら良いか。試行錯誤の結果、黄色になるまでに、ひいてはハゼるまでに水分が極めて少なくなっている豆ならば、火力の途中変更がかなり手前まで許されることが分かりました。十分に水抜きに時間をかけ、大胆な火力で成分を進化させ、ハゼのタイミングを見計らってカロリーを絞る。活発に煙を出している最中に火力を下げすぎると燻り臭くなってしまうので、ここも慎重さが求められます。

クリアーな豆を目指すためにはあまり火力をいじるのは危険なので、かなりアクロバットな方法になってしまいましたが、難易度の高い硬質豆には効き目のある手段の一つになりそうです。