初期火力と豆の体積膨張

焙煎は後半になるほど様々な反応が激しく起こるため、前半、特に序盤は軽視しがちになります。水分を丁寧に抜くという意識はあっても、時間をどれだけとるかという程度であり、以前は投入時の温度、蓄熱だけを見ていました。

ところが最初の1〜2分の間ダンパーを強く閉めただけで味が明確に重くなるという結果に出くわしてからは、考えを改めるようになりました。排気だけでなく、最初の1分間に火力(ガス圧)が違うだけでも風味が大きく変化することは確かです。これは蓄熱とはまた別で、ガス圧だけで変化します。弱ければクリーンで渋味傾向、強ければシャープで苦味傾向です。

あの冷たく硬い序盤の豆が、立派な化学反応を起こしているとは思えません。豆の表面の微粉が剥がれやすくなるだとか、豆に小さな亀裂が入るだとか、そういった物理的な変化が原因だろうと思って色々と文献を調べたところ、焙煎序盤に高火力を与えると早い段階で豆の体積が有意に増える現象があるとのことです。

投入時の予熱や蓄熱が高くても、排気が強くても弱くても、ガス圧が低い限りこの早い体積増加は起こりません。つまり、伝導熱や輻射熱ではなく、強い熱風を浴びると、早く豆が膨らむということです。豆の構造の間隙に空気が入り込むのか、外側からの圧力で変形しているのか、理由は定かではありませんが、焙煎の初期に大きく膨らむことと中盤に大きく膨らむことの違いが味の違いに繋がるようです。

高火力で始める焙煎の場合、体積だけが大きくなるので豆の密度は下がり、構造としては脆くなります。水分が抜けやすくなる一方、中盤以降の高火力ではオーバーカロリー気味になり、焦げ味がつきやすくなります。

低火力の場合は、小さくしっかりした構造のまま少しづつ水分が抜けていくので、苦味はつきにくくなりますが、中盤以降は逆に高火力でないと成分がなかなか進化してくれません。その高火力で終盤に突入するので、また別の問題も生まれてきます。

豆の個性としては、フルーツ、ナッツ系は低火力が、ティーライク、チョコレート系は高火力が向いているように思えます。

焙煎開始から3分が経過した時点で取り出した豆。左が低火力、右が高火力。体積が違うように見えなくもないですが、きちんと計測したデータ無しに判別することは難しそうです。