焙煎度と蓄熱
ここ1ヶ月ほど、中深煎りから深煎りにかけて、味のパンチの不足に悩まされていましたが、あることをきっかけに理由を突き止められました。焙煎が熱風式寄りになっていたことが原因だったようです。
半熱風式の焙煎機では、焙煎機の蓄熱量によって直火寄りか熱風寄りかの調整が利きます。時間をかけて予熱することによって釜全体に熱が貯まり、それの比率が火や熱風に対して上がってくると、直火系の香ばしく力強い風味になっていきます。
以前、冬場の寒さに合わせて蓄熱を多くとって焙煎していたことで、浅煎りにはやや不向きな直火系の味がのってしまっていた時期があったのですが、今度はその反省が逆方向に向かわせてしまっていました。連続焙煎の間を比較的ゆったりとって焙煎機を少し冷まし、全体的にすっきりとした傾向にできれば良いだろうという姿勢に傾いていて、それが甘かったようです。
浅煎りに苦味がのってしまうことと、深煎りを軽くしてしまうこと、どちらがよりマイナスが大きいかといえば、前者と思いがちですが、実のところ同じぐらいと言えます。浅煎りをメインに打ち出しているロースター以外では主力が中煎りよりも中深煎りになる場合が多いので、むしろ後者の方がより都合が悪いことが多いかもしれません。
直火だと浅煎りに向かない苦味がのりがちなように、熱風だと深煎りに不向きな「渋味」がのってくる傾向があります。生焼けを起こしているわけではありませんが、実際にその系統のノイズが入ってきます。雑味と呼べるほどのものではないので、他がうまくいっていれば美味しく飲めるのですが、深煎り特有の甘味、コクは減殺されてしまいます。
いわゆる昭和の喫茶店としてイメージされるような昔の店のコーヒーが、色々と荒削りで雑味もあるのに力強さがあり妙にクセになってしまうという経験をされた方もいらっしゃるかと思いますが、深煎りを直火で焼いたあのボディの強さと塩味は、飲みづらさを補って余るほどの魅力があります。昔の浅煎りアメリカンコーヒーは草っぽくて飲めたものではないということも多かったようですが、直火で丁寧に煎り込んだ深煎りというのはやはりコーヒーに求められる味の代表だと思います。
ところで原因を突き止めるきっかけとなったあることというのは、豆の投入量です。中深煎り、深煎りは一度にたくさん焼くフルローストでやることがほとんどなのですが、ある時調達をミスしてしまい間に合わせで少量焙煎をすることになりました。少量なら同じ蓄熱であれば当然早く焙煎が進むので、そこでふと思い立って火力を落として時間を揃える、つまり豆の量に対して高蓄熱の低火力、直火寄り焙煎にしてみたところ、深煎りらしい香ばしさと力強さが戻ってきていました。ミスをすることによって、蓄熱による風味の変化に気づけた(思い出せた)わけです。