ニュークロップの強さ

毎年SCAJの会場で様々なコーヒーを試飲する時に感じさせられるのに、とにかくフレーバーが強い、ということがあります。そういう豆を使っているからだろう、と特に深く考えもせず過ごしてきましたが、今年規模を拡大した小規模ロースター展示エリアであるcoffee virageを周ったとき、どうも豆の種類だけが理由ではないことが分かり、色々調べてみたところ、なんのことはなく生豆の鮮度でした。

ロースターとしては焙煎の技術に目が行くあまり、生豆の鮮度に疎くなることがあるどころか、むしろ条件が良くない状態からいかにして焙煎で質を上げるかという方に意欲が向いてしまうことがあります。もちろんどんな豆にも対応できる技術の幅は大切ですが、コーヒーを消費する側の人にとっては、過程がどうであろうと出来上がったモノの質が高ければそれで良いわけで、焙煎の努力感はとりあえず端っこに置いておかなければなりません。

さてこの生豆の鮮度ですが、収穫後数ヶ月以内のニュークロップ、1年以内のカレントクロップ、2年以内のパーストクロップ、それ以前のオールドクロップという区分けは大まかなようでいて結構意味のある区切りでもあります。特に夏の暑さが厳しい近年では、常温(常温と呼んで良いのかも分からない気温ですが)で数ヶ月置いただけで鮮度の低下が大きく進んでしまいます。何年経ったか、というより夏を何回過ごしたか、というようなカウントがいいかもしれません。真夏を2度経験してしまうとその豆はもうほぼオールドだろうといった具合です。

SCAJ会場に登場するようなフレーバーを目指した場合、カレントとパーストの間が大きな境目となります。生豆の明るい酸とフレーバーは、15℃程度の適切な温度で保管すれば、収穫後一年弱ぐらいまでの期間維持されますが、それを過ぎると急激に落ちていきます。特にカレントをすすったあとにパーストを口に含むと、まさしく草っぽさと表現できる曇りを感じ取れます。パースト単独ならおいしく感じるのに、並べて比べると良くない特徴がダイレクトに伝わってきてしまうのです。これは浅煎りを飲んだ直後に深煎りを飲むと、一時的に苦味だけが強調され深煎りの甘味や風味が感じ取りにくくなることがある現象と似ています。

先日、日本では手に入りにくい3ヶ月もののニュークロップを焙煎してみましたが、やはり会場で飲むような溌剌とした風味が出ました。グレードは高くない豆でしたので、ひとえに鮮度によるものでしょう。SCAJ2023以降、数ヶ月単位で鮮度に気を使うようになりました。

とはいえ、小分けで生豆を取り寄せ続けていたら高くついてしまいますし、お気に入りの銘柄や看板商品はどうしても大量保管が必要で、常にカレントクロップを回し続けるのは難しく、いわんやニュークロップを主役にするのは現実的ではありません。

そこで、冷蔵、あるいは冷凍保存を試してみました。1ヶ月冷凍したあと解凍して焙煎してみたところ、特に悪い味は出ていませんでした。4年冷凍してニュークロップに近い風味を保っている事例もあるようなので、続けてみる価値がありそうです。