RoR

焙煎にRoR(Rate of Rise)という言葉があります。

温度上昇率、1分間で何度上昇したかで測ることが多いですが、つまりは焙煎速度のことです。

新しい焙煎機ではRoRをグラフとして記録してくれるものもあり、焙煎後の分析には役立ちますが、RoRを制御することはなかなか難しいです。前半の水抜きは慎重に、後半はてきぱきと進めるといったように豆の温度帯によって要求される速度が異なります。火を強くすればいいんだろう、という単純なものではなく、焙煎機内の蓄熱と火力の合力で考えなければならず、また排気の強さによっても上昇速度が少し変化します。

合力というのは、いわば「助走」がついてしまうものといっていいでしょう。前半が強火なら、後半に火を弱めても、後半の最初はどんどん上がってしまって止められなくなるということです。逆に前半は弱火で水を抜いたので中盤に少し強めの火で上げてみたら、勢いが足りなかったいうこともあります。非常に強い火力にしたら、RoRの許容範囲が狭い終盤に勢いが止められなくなって焦げくさくなってしまった、というのもよくあるミスです。このように、慣性、遠心力に振り回されるような温度管理が焙煎の難しさの一つです。

そのような慣性が働くのであれば局面ごとに前倒しを意識して細かく火力を調整していけばよいのでは?という発想の前に立ち塞がるのが、水抜きの最中の火力変化は豆の内外の煎りムラによる味の重さに繋がってしまうという現象です。

以上のような複雑さから、焙煎はある程度一定の火力というのがベターな基本となっています。

しかしこのような妥協は、パカマラをはじめとした大粒豆によって欠点を増幅されてしまいます。水が抜けにくく前半に時間が必要になり、フレーバーの発達もややしづらいため後半は速さが求められるので、一定火力ではどちらかを犠牲にするような、あるいはどちらもスポイルする形になってしまいます。

八方塞がりのような状況ですが、超低RoRで水抜きを極端に長くとり、低い温度の時点で水抜きを完了することで、その後の高火力に変更した際の煎りムラを抑えることができます。助走が全然ついていないので、超高火力が必要になり、これが終盤の超高RoRに繋がってしまって制御が難しいですが、大粒豆、硬質豆を相手にした時はとても有効なテクニックです。