SCAJ2023
今年もSCAJに行ってきました。
会場も増設され、開催日数も1日増やしての大きな規模での備え。日数の分を差し引いても、コロナ禍から大幅に回復した昨年よりさらに5割増しの来場者数という盛況ぶり。
海外から生産者の方も多数来場しました。私はインポーターでもなく現地に行ったこともないのですが、生豆を取り寄せる際に何度も見る生産者の写真で以前から顔を覚えており、初めて会うのに大半の生産者と既知であるかのような感覚になってしまいました。おそらくコロナによる数年の停滞と、昨今のスペシャルティコーヒーの隆盛がタイミングとしてバッティングしてしまっていて、今年になってようやく本来の姿になったということでしょうか。知っている生産者との毎年の交流はこれから続いていくでしょう。
ベネズエラのコーヒーを紹介する元野球選手のラミレス氏
パナマゲイシャやCOEなどの高級品の人気は相変わらずですが、今年はスタンダードで高品質な豆をカッピングさせてもらえる機会が増えました。紙コップで少し飲ませてもらうのではなく、5種、10種といった数を次々試させてくれるちゃんとしたカッピングです。全体的に奇抜さを狙ったものは少なくて平均のレベルが高く、フレーバーが直球で来るというよりも甘さや酸の質だけで十分に個性が分かるような堅実さが素晴らしかったです。
今年の際立った特徴は、小規模ロースターをメインとしたcoffee village が専用の別館で開催されるほど大きくなっていたことでしょう。どこも試飲できるカップのレベルが非常に高く、品種や精製法も最先端のものが勢揃いなのですが、それを引き出せる焙煎技術の高さは例年以上でした。
そして恒例のローストマスターズチームチャレンジ。今年のお題は、『お客さまと共感できる「酸」の魅力とは?』
ここ数年の動向で深煎りへの期待がもう持てず、さらに今年のお題を見てやや斜に構えた心持ちで参加したのですが、結果は少し興味深いというか、複雑な感想を抱きました。
9チームのハイレベルなコーヒーが並ぶ中、特にクリーンで酸が明るいものが2つがあり、プロのカッパーが評価する部門では予想どおりこの2つが選ばれました。しかし、オーディエンス部門においては、別の2つが入賞。カッピング部門入賞の2つと比べるとクリーンさよりも力強さ、もっといえばダークさを感じさせるコーヒーが入賞しており、過去2年の傾向からすると予想外でもありました。
昨年までは、一般の方は華やかさよりもクリーンさを重視する傾向にあると分析していたのですが、こと「明るい酸」という評価に関しては、まとまった共通認識が無いというか、重要視されていないという印象を受けました。この明るい酸というのは、別の言い方をするとレモンのような単調な軽さともとれ、昨今流行りの浅煎りの特徴をさらに際立たせるものでもあります。おそらく一般の方はブルーベリーやキャラメルのようなコク、重みのある甘さに好みが寄っており、今思い返せば一昨年と昨年のコロンビア、ケニアも、クリーンというよりは渋みの少ない丸い味がオーディエンスで優勝していました。
浅煎りよりも深煎りの方が良いとは言いませんが、やはりコクやボディ、テクスチャを美味しいと感じる人がとても多いのだと思います。確かに一昔前に、苦すぎるダークローストが日本のみならず世界から敬遠された時期があり、サードウェーブの浅煎りの台頭はそれの反動だった面もあります。それでもコーヒーの好みの公約数として最も強いのは、キャラメル味が際立つ中深煎り、シティ、フルシティローストにあるのではないでしょうか。
別の視点で見るのなら、ある種の中心、王道を外して一大市場を形成してしまった今の浅煎りスペシャルティのレベルは、それほどまでに高く美味しいのだと改めて思います。深煎りが好きな人でもさすがに認めざるを得ない水準にあり、有無を言わせないクオリティで好みを超越してきてしまいます。
今後、浅煎りに対するカウンターバランスを取るための深煎り文化を安定させるためには、生豆の質よりも焙煎技術がより重要になってくるでしょう。年々勢いを増していっているコーヒーの世界ですが、ロースターとしては生産者の努力に負けないように食らいついていきたいものです。