シドラ

ピンクブルボンと並び、ゲイシャの後継との呼び声も高い新種にシドラ種があります。これらに注目するきっかけとなったのは、なんのことはなくセール価格によって手に入りやすくなり、少しだけ試したくなったというだけです。嫌気性発酵のナチュラル以来、これといって目ぼしい銘柄に出会っておらず、ちょっとした個性の違いを比べてみたいという程度で入荷してみました。

最初に焙煎したのはコロンビア・シドラのナチュラル。フルーティーでジューシー、後味が甘いといった説明もよく聞く謳い文句で、大して期待もせずに焙煎機に放り込んでみました。するとキャンディーのような甘い香りが序盤から部屋中に漂い、ハゼても同じ香りの煙が立ち込め、これはちょっと様子が違うということがすぐに分かりました。

カップテストしてみると、その印象はまさしくスパークリングワイン。名前の通りシードルそのものでした。スペシャルティで風味に驚かされたのはグァテマラのナチュラル、エチオピアのイルガチャフ、それから嫌気性発酵がありますが、インパクトで言えばそれらを凌ぐものがあります。高価すぎて焙煎したことがないパナマのゲイシャはSCAJ会場などで試飲したことがあるだけですが、それと比較しても、記憶にないフレーバーで困惑するほどです。

ところがこのシドラはウォッシュトだと、とたんに風味の強さはなりをひそめ、上品でスムースな個性に変化します。この感じはピンクブルボンのウォッシュトと同じ。もしやと思い、手に入らなかったピンクブルボンのハニーをとあるお店で飲んでみたのですが、やはりウォッシュトよりはるかにフレーバーの強度が際立っていました。どうやらこの2種は、ナチュラルかハニー製法で大きく個性を顕わにするようです。ウォッシュトも間違いなく上質なのですが、ナチュラルを先に知ってしまうとこの強い風味を磨き落とすのはちょっと勿体無いなと感じてしまいます。

シドラもピンクブルボンと同じく、広く知られている在来種の変異あるいはハイブリッドであり、原種ではなく途中から登場したものです。高級品ですが法外な値がつくほどではなく、ワンランク上のグループとして普段使いできる範囲です。また、風味の面でもピンクブルボンは桃のような、シドラは青リンゴのような名前通りの分かりやすさがあり、味の共有もしやすいです。かつてゲイシャの価格にお手上げだった身としては、思いがけない出会いに胸が高鳴っています。