ピンクブルボン
ここ最近、スペシャルティ業界で、特に浅煎りを基本としているお店でピンクブルボンという品種名をよく見かけるようになりました。独特な風味特性からエキゾチック品種、エキゾチックバラエティとも言われているとのこと。どこかで聞いたことがある名だなと思って過去の焙煎記録を調べてみたら、3年ほど前にトップオブトップとして一ヶ月間ほど使用していました。つまりそれほど印象に残らなかったということのようです。
しかしながら、今になって改めて飲んでみると、確かにその名に相応しいピーチやライチのような個性的な風味が。芳醇でスパイシーな香気があり、他のコーヒーと並べてテストすると、前後に飲んだ銘柄がこのピーチフレーバーにかき消されてしまうほど、支配的な味が横溢しています。レッドブルボンとイエローブルボンの自然交配種あるいは変異種とのことですが、この名前も印象に残らなかった原因の一つでしょう。ムンドノーボやカトゥアイ、イエローブルボンやオレンジブルボンといったアラビカ種の変異種や交配種は確かに美味しいのですが、それはティピカやブルボンと同じぐらいの個性ということであって、それ以上でも以下でもないというのが正直な感想でした。パカマラなどはある程度クリーミーかな?と思える程度で、質の高いコーヒーは土壌や管理、精製といった他の要因で決まり、個性には品種の違いはさほど寄与しないというのが従来のイメージでした。しかし、同じような過程で生まれてきたはずのこのピンクブルボンは毛色が違います。明らかにゲイシャの側に寄っている風味があります。ゲイシャはアラビカ種の中でも原種に近いとされ、その野生味も理解できますが、こちらは自然交配とはいえティピカよりも後の世代の、さらに変異種です。つまりゲイシャのようなフレーバーが途中で突然出現したということです。
昨年のSCAJ会場のブースを回ってみて、もうコーヒーは技術の交換と普及がメインであり、新しいアイテムは頭打ちになってきたのかなと感じていたのですが、どうやら知見が狭かったようです。このピンクブルボンの登場は精製工程の技術だけではなく、それ以前の遺伝子、品種の段階で今後の大きな拡がりを期待させてくれる先駆けの一つとなりました。
さて、なぜ3年前にさほど印象に残らなかったかというと、理由は簡単で焙煎度でした。当時は適正な煎り止めは国のイメージに引きずられており、コロンビアのピンクブルボンをフルシティまで進めていたのが、あのピーチティーのような風味を消してしまう原因だったようです。また、焙煎してから日にちを置くエイジングもかなり長くかかる傾向があり、チェックを丁寧に行わないと真価を見逃してしまいがちな落とし穴もあります。
豆が意外なほど硬く、酸味が強いのでベストな煎り止めはハイローストのちょっと上ぐらいのところだと思います。