焙煎後半の排気

様々な条件が絡み合うように見える焙煎ですが、操作自体は火力と排気が基本的な構成要素であり、この二つのバランスをどうとっていくかということになります。序盤に強火を当てることで雑味の少なさや繊細さよりも風味を強調しようとか、終始排気は強くしておいて甘さやボディよりも軽さを出そうとか、方針を定めてそれぞれ細かいデータや数値を模索して決めていきます。そういった操作の中で、扱いが大雑把になりがちなのが、意外や反応が激しい焙煎終盤の排気であったりします。

中火で排気を少し閉め、進むにつれて徐々に開けていく基本に忠実な焙煎や、酸味を強調するための豪快な焙煎などロースターによって個性がありますが、終盤に排気を開けるということだけはおおむね共通しています。煙の匂いを付けんとばかりに後半にダンパーを全て閉めてしまうような方法もあるようですが、実験のような限定的な試みにとどまるでしょう。

やはり煙かぶりのデメリットはどんな方法でも表れてしまうもので、1回目のハゼを合図として出てくる白煙は速やかに排出すべきで、それが焙煎機内に返ってきて籠るのは避けなければいけません。ところがこれが後半における、とにかく排気が強ければ良いという漫然とした考えにつながってしまいます。ここで忘れてしまいがちなのが、煙が全て排出できていればそれ以上の排気速度は不要であるということと、高い排気速度は煙とは別に豆の表面に強い影響を与えるということです。強すぎる排気は、強火の時は焦げたような味を、弱火の時は芯残りのような渋味を招きます。特に酸味や軽さを狙わず、前半に排気を絞ってコクや濃度を出す焙煎を行っている場合は、後半にニュートラル(焙煎機内の圧力が正でも負でもない、取り出し口のフタを開けると吹き出しも吸い込みもしない一点) に合わせる必要があります。ここでなんとなく排気を十分に取れればいいや、といって大きく開けすぎると、重みがあるわりに甘くなく渋いという前半と後半の長所を相殺するような結果となってしまいます。

まるで速球をキャッチャーの真ん中に投げるが如く、力強い局面にこそ中心への精確さが要求されるわけです。左で間違えたから右に行ってみよう、では成功しないのが焙煎の妙味でもあり、意欲をかき立ててくれるところでもあります。

1ハゼが近づいたら、ダンパーを大きく開けてテストスプーン口か投入口に手を添えて、そこからダンパーを閉じていって吹き出す熱風を感じ始めたところがニュートラルです。これは焙煎機いっぱいの量を焙煎するフルローストでのことで、少量焙煎になるほど吹き出しは強くなります。つまり少量焙煎では実際のニュートラルをとるためには吹き出し始めよりももっと閉じる必要があります。