インドネシア

コーヒー豆の名前の表記は国名がまず基本ですが、中にはブランド名が先にくるものもあります。ブルーマウンテン(ジャマイカ)やモカ(イエメン)、キリマンジャロ(タンザニア)などが代表ですが、それらの中でもひときわややこしいのがインドネシアでしょう。

スマトラ島で採れたアラビカ種であるマンデリン、スラウェシ島のトラジャ、ジャワやバリなど、どれも名前は有名でありながら、どれがどれだか分からず、ベテランのコーヒーマンでも正確に把握している人は少ないと思います。

豆の品種も、メジャーなティピカから始まり、アテン、ジュンベリ、ティムティムといった他の地域ではあまり見られない名が並び、精製法もスマトラ式という脱殻前の乾燥をスキップして行う独自のもので、近年は通常のナチュラルやハニー製法も加わり、その事情の複雑なことといったら、まるで地図で見る島嶼国家インドネシアの地形そのままのようです。

ただコーヒーの味で言えば、傾向を掴むのは簡単です。品種がティピカあるいはブルボンといったアラビカ種であるか、それ以外であるかです。このそれ以外というのは、病害に強いカネフォラ種との交配で生まれた収穫が容易な品種たちのことです。先日、試しにガヨマウンテン、リントン、バリ、スラウェシの各地域の豆を焙煎してテストしてみたのですが、どれもマンデリンらしいアーシー(大地)フレーバーがきちんとあり、チョコレートのような甘さも共通していたのですが、マンデリンのもう一つのイメージであった濃厚なコクに関しては、ティピカ、ブルボン、カトゥーラといったアラビカ種以外はことごとく軽いという結果でした。

この交配種による軽さは、特に深煎りに向くインドネシアやケニアにおいてどうしてもついて回る悩みでもあるのですが、一方で酸味が特徴である中深煎り向きのコロンビアにおいてはカスティージョという有名な交配種があり、これは従来のコロンビアの個性とあまりぶつからず上手くいっていると感じます。厳密に言えばやはり重厚さにおいて少し落ちるのですが、華やかな酸こそがコロンビアの個性だと言えば十分納得できる範囲に収まっていると思います。

さて件のインドネシアですが、以前は交配種が入っていないと思っていたマンデリントバコを扱っていたのですが、今年に入ってアーシーフレーバーが急に弱くなってきたので改めて樹種の項目を確認してみたところ、「ティピカ、他」の文字が。詳しいことは分かりませんが、何かが変化したのは確かなようで、それが先述のテスト焙煎にも繋がった次第です。

品種まで調べるのは難しいと思いますが、ティピカ100%のインドネシアを飲む機会があったら是非交配種との比較をしてみて下さい。往年のマンデリンのコクと重みを確認できると思います。

ティピカ(左)と交配種(右)のマンデリン。粒の大きさの違いも一目瞭然です。