メキシコの焙煎

文化では日本にも馴染みの深いメキシコですが、コーヒーとなると印象がスッと薄らぐのではないでしょうか。言われてみれば、おそらくあるんだろうな、という程度かもしれません。コーヒーを飲んでいそうなイメージはあるけれど、実際にメキシココーヒーを飲んだことがあるという人は結構少ないと思います。

隣国に消費大国アメリカがあるので日本に入ってくる量は少なく、ヨーロッパにほとんどが持っていかれていたケニアと状況は似ている部分もあるかもしれませんが、量は少ないながらもその風味特性において昔から日本でも注目度が高かったケニアと比べると、悲しいかな個性が弱く、比較的珍しいにもかかわらずもっぱらブレンド行きの憂き目に会うことが多かった豆でもあります。

しかもこのメキシコという豆、コロンビアと並び焙煎の難易度が高い豆の代表でもありました。煎り止めのタイミングがシビアであり、豆が硬く芯残りや草っぽさが出やすく、コロンビアほどボディも無いため「ワラのような」味がすると揶揄されたものです。

一般的には飲みやすいスッキリとした味とされていたようですが、実際のところ中煎り向きの苦味が控えめな個性がそうさせていたと思われます。草っぽさの消えにくさという意味ではナンバーワンであり、個人的にはもっとも焙煎に失敗しやすい難敵でした。

それが三年ほど前、スペシャルティのメキシコナチュラルという初めて聞く銘柄を焙煎する機会があり、イメージを覆されます。

その第一印象はまさにウイスキー。アルコールにシナモンを振ったようなエキゾチックな風味。そのスパイシーさがまるであのワラの味をグレードアップさせたかのような、かつての面影が残っているのがまた苦笑してしまうところでもありました。生豆の密度や硬度が上がっているにもかかわらず火の通りも良く、ネガティブなフレーバーは感じられません。昔と比べて明らかに焙煎がしやすくなった豆の一つと言えるでしょう。

ナチュラルは安定した入荷が出来なかったので現在はウォッシュトのスペシャルティを扱っていますが、こちらもキャラメルのような風味があり、ストレートでも十分な濃度があります。意外と種類が少ない中煎り、シティーロースト向きの豆として、重宝していくことになりそうです。