ダブル焙煎の特徴と応用

青々としたニュークロップや高地産の非常に硬い豆のウォッシュトなどを相手にした時は、どうしても普通のペースの焙煎速度だと水分抜きが不足してしまいます。近年の高品質豆の中でもトップスペシャルティと呼ばれるようなレベルのものは、雑味の少なさが特徴でもあるので、水分が抜け切れていなくても結構美味しく感じられてしまうのがまた落とし穴となっています。

水分が抜け切った豆の味は、「スッキリしている」を超えて、トロみが出てくるのが特徴です。紅茶や緑茶にもよく感じられるタイプの渋味成分が弱くなり、甘味とコクが優位になってきます。丸い味、ラウンドマウスフィールが非常に強くなるのです。これは軽さと酸味が強みである浅煎りでも同じです。

生豆の質が今ほど高くはなく雑味が多かった頃は、ロースターも味のテストをするカッパーも、ネガティブがどれだけ少ないかに重点を置いていました。その傾向を端的に表していたのが、ダブル焙煎という、焙煎途中で豆を火から下ろして冷却し、のちに普通の焙煎をするという技術です。水分を抜くという点においてはまさに徹底的と言える方法で、メリットよりもデメリットの方がまさると判断されたのか、近年ではあまり見られなくなってしまいました。

ダブル焙煎をした豆は、強い渋味や酸味を出さない一方で、香りも味も弱くなってしまいます。これは仕方のないことだと思っていたのですが、湿度の高いある日にダブル焙煎に挑戦した時に、一度目の焙煎で火を入れすぎることをためらってかなり低い温度で下ろしてしまった豆が、二度目の焙煎後、味や香りが強いままだったことが一つのヒントとなって、水分抜きと味抜けをかなりの程度分離できることに気付きました。正確には分析できていませんが、一度目の焙煎でシワが出てくるところまで温度を上げてしまうことと、熱されてゆるみ始めた豆を冷却すること自体に味のボヤけの原因があるようです。つまり水分抜きを低い温度帯だけに集約させ、そして中断をしなければ味は弱くはならないということです。水分抜きの序盤に時間をかけるという発想は今までも何度もありましたが、それを極端にやっても上手くいくようです。豆の乾き方次第では途中からの大きな火力上昇が許されそうです。

手順こそダブルではありませんが、着想としては古くからあるこの技術が大変助けになりました。

豆がゆるみ始めてからこれぐらいの色になるまでの間に時間を長く稼ぎたいところです。