SCAJ2022
今年もSCAJに行ってきました。
昨年はコロナ禍の中で規模を縮小しての開催でしたが、今年はその反動もあったのか出展者が多く会場も広くとられ、過去最大の来場者数を記録するほどの盛況だったようです。
世界各国の生産者の方々も集まっていて、色とりどりのコーヒーの情報で溢れていました。
ただ、ゲイシャ種やパルプドナチュラル、嫌気発酵といった過去に時代を作ってきたような技術に関しては特に目新しいものはありませんでした。おたくのコーヒーがおいしいのは知ってるよ、という感じのものばかりで、派手なフレーバーを作るアイデアはとりあえず飽和状態なのでしょう。
高品質ロブスタの量産を目指すベトナムコーヒーや、ペルーのゲイシャ種、コロンビアのナチュラルといったように、従来の技術を広く普及、発展させて国や生産環境の垣根を越えようとしている動きが感じ取られました。コーヒーとの共通点も多いカカオ(チョコレート)のブースが多く見られたのもそうした流れの一つかもしれません。
となると、生豆の個性ではなく焙煎士の個性が光る時代だ、とばかりに恒例のローストマスターズチームチャレンジに足が向きました。
昨年は深煎りがテーマで、今年のお題も深煎りに耐えられるケニアの焙煎。
スペシャルティの世界でも深煎りの方向にシフトしていきているのかと期待してオーディエンスとして参加しましたが、その内容は予想とは違うものでした。
エントリーされたコーヒーの焙煎度は全てが浅煎り。厳密には中煎りといえるものもあるようでしたが、いわゆるフルシティローストに達しているものは一つもありませんでした。もっとも、どの深さがフルシティで中深煎りなのかわからなくなるほど基準が浅く、これではケニアを選んだ意義も薄れてしまいます。ルワンダやニカラグアがお題ならともかく、昨年は深煎り、今年はケニアがテーマで、この2年の計18杯のコーヒーの中で深煎りがついぞ一つも無いというのは、深煎りを避けているというよりも、共通認識としての焙煎度の基準が大幅に変わってきているということなのでしょう。
カッピングの手法にも一因があると思います。生豆の公平な評価において非常に優れた手段となるカッピングも、焙煎の出来を評価する手段としては万能とは言えません。コーヒーの油分を出し切る抽出法は硬質豆を浅く煎り止めた際の渋味をある程度ぼやかしてマスキングしてしまいますし、さらにその渋味は舌の奥で感じ取れる部分が多いので飲み込まないカッピング手法では感じ取りにくいのです。確か昨年優勝した豆はこの渋味が少なく、オーディエンスの投票とプロのカッパーの評価が同じで二冠を取っていましたが、今年は1位も2位もオーディエンスとカッパーの評価がバラバラで、計4チームが入賞していました。お客さんだってほぼ全員がコーヒーの愛好家なわけですから、カッピングでひときわ絶賛されていた2チームがオーディエンス投票で両方とも2位にも入らないというのはやはり無視はできないでしょう。カッパーの方はフレーバーよりもクリーンカップこそが最も重要であり、これがクリアできればフレーバーはおのずとついてくるとおっしゃっていましたが、これは同感でして、だからこそ普通のカップコーヒーを大勢の人に飲んでもらうというのが大事なのではないでしょうか。この2年の投票人気を見る限り、一般の方々も明らかに華やかなフレーバーよりもクリーンカップを高く評価する傾向があるのが見てとれます。そして、彼らが普段飲んでいるコーヒーはドリップがメインのはずです。
オーディエンス部門があるこの企画はとても有意義だと思いますので、生産地だけでなく消費者の垣根もこれからはどんどん越えていってほしいと願っています。