生豆の含水率と湿度

焙煎の前半における豆の水抜きは基本中の基本であるがゆえに、その正確さが意識の隅に追いやられてしまうことがあります。どの程度水分を含んでいるか、煎り上がりの水分の飛び方がどれぐらいかが、見ただけではよく分からないためです。どれぐらい水分が抜けていれば合格であるか、そのラインを忘れてしまいがちになります。

高地産であること、収穫から間もないニュークロップであること、粒が大きいことなどが主な指標になりますが、湿度の高い日本の場合は特に季節に気をつけなければなりません。

青々とした重みのあるコーヒーの生豆が空気中の水分程度でそんなに影響を受けるのかと思っていましたが、焙煎するとなるとこれが想像以上に大きいようです。

ロースターの手元にやってくる生豆の含水率は一般的に11〜13%程度ですが、これが少し上がって14〜15%ぐらいになると、もう豆の反応が大きく変化していきます。同じ条件、同じ煎り止めをしても、煎り上がりの色はもちろん豆のサイズが明らかに違います。並べて比べなくても片方を見ただけで分かるほどの焙煎豆のサイズ差があるということは、同じ生豆でも完全に別物の製品になったと見て良いでしょう。

東京都の年間の平均湿度は60〜65%ほどありますが、季節や地域によって75%あたりになってくると、この生豆の含水率が13%を超えてくるようです。梅雨や台風が来る季節では90%を超えるような日が何日も続くこともあり、その空気にさらされ続けた生豆の含水率はおそらく16%以上に達し、冬場の焙煎のような水抜き程度では歯が立たなくなってきます。

春先に焙煎が狂うのは、冬の間に冷え切った生豆がある日に急な暖気にさらされて結露しているためなのでは、とも考え始めています。

バキュームパックのような空気を遮断する保管が出来れば良いのですが、一回の焙煎ごとに詰めなおすわけにもいかないので、この高い含水率の生豆をどう煎り上げるかの方が重要です。

水分が多いと言っても、精製されたあとに湿度によって増えただけなので、豆の成分それ自体が濃くなったわけではありません。なので適切な煎りの深さや後半の進行速度といった豆の個性は変化していません。豆の反応がまだ少なく、かつ水分がよく抜ける100〜130℃間の時間を長くとるだけでかなり改善します。