半熱風式焙煎の予熱と蓄熱 (2)
半熱風式の焙煎において、ガス圧(火力)には留意すべき二つの性質があります。
一つは短時間焙煎にするか長時間焙煎にするかという時間、速度の問題。もう一つは対流熱の比率を上げるか接触熱(伝導熱)の比率を上げるかという焙煎のタイプの問題です。蓄熱が高いほど直火寄りに、低いほど熱風寄りになるという話と組み合わせて、火力でもどちらに寄せるかということを考えなければなりません。火力という言葉から強火なら伝導熱が増えるように感じてしまいますが、実際は強火の方が対流熱寄りの焙煎、熱風式焙煎の味に近づいていきます。
少しややこしいですが、これは対流熱の量は火力の強さにすぐ連動するのに対し、伝導熱の量は火力と釣り合った量に達するのに少し時間がかかり、そのタイムラグがあるためです。
例として予熱ゼロの冷たい焙煎機で強火でスタートした場合、序盤は多量の熱風が豆を加熱していく一方、釜はそれほどすぐには熱くなってくれません。火が当たっている釜底面の温度はある程度火力と連動しますが、それも全面の一部ですから熱風ほどの加熱力はありません。熱風がぐんぐん豆を加熱し、焙煎の中盤に入ったあたりからようやく釜全面がほんのりと熱くなってきます。この時点でもう豆は熱風を十分に受けた焙煎になっており、後半に釜の伝導熱が対流熱にようやく近づいてきた頃には焙煎終了です。
これが弱火の低予熱の長時間焙煎の場合、序盤こそ熱風で少しづつ上がっていくものの時間がかかり、豆が上がり切らないうちからだんだんと釜全体が温まってきて、低い温度帯で伝導熱と対流熱が釣り合ってきます。強火の時と比べて、対流熱と伝導熱が半々という状態が手前で訪れ、長く続くわけです。
高蓄熱の高火力の場合は最初から最後まで対流熱と伝導熱が釣り合ったまま短時間に焙煎が終わり、高蓄熱の弱火力の場合だと序盤が伝導熱寄り、中盤以降は釣り合うというラインを辿ります。釜は温まるのに時間がかかりますが、高蓄熱低火力で始めた場合、今度はなかなか弱火に釣り合った低蓄熱にまで下がってくれません。これだと前半から中盤の長きにかけて、直火寄りの環境にさらされることになります。上がる時も下がる時も釜の温度には慣性が働くような感じで、変化が遅く、ラグがあるわけです。
弱火だとどちらでも熱風寄りの味にはならないということになります。弱火で進めると酸味が弱くなるのは、長時間焙煎によって成分が消失したということだけでなく、どう予熱を取っても直火に寄っていくからというのも大きな原因でしょう。ただ、直火に寄せた焙煎は苦味も増える分、甘みも増すので悩ましいところです。中程度の予熱で中火で進める焙煎というのは、やはり基本として優れているのです。
これらはすべて一定火力で進めた場合の話で、火力の途中変更を考慮するとさらに複雑になってしまうのでそれはまた別の話になります。