半熱風式焙煎の予熱と蓄熱

冬に入ってから浅煎りにあまり向かない苦味が乗るようになりました。深煎りを含めた全体としては悪い味になっていたわけではないので、操作ミスではなく個性付けを間違えているのではと思い、全二十数種類の豆の同時カッピングテストを行い、様々な他店のコーヒーも検証してみたところ、自身の焙煎豆にここ数週間、直火寄りの特徴が出ていることが分かりました。

直火式焙煎と熱風式焙煎の名店をめぐってみて気付きました。直火系の味の特徴などはすでに知っていたのに、なぜそこまでやらないと気付けなかったかというと、焙煎の操作と結果が従来のイメージとは正反対だったために、にわかには信じられなかったからです。気温が低いことを意識して、豆を投入する前に釜の予熱作りに時間を長くかけ、そしてそれが熱風系の味に寄せる操作と思っていましたが、これが違いました。

半熱風式において焙煎中に豆が受ける熱には主に熱源から送り込まれてきた熱風による対流熱、熱せられた釜の内側の面との接触によって受ける伝導熱、そして熱せられた釜や豆が赤外線などの電磁波によって他の豆にエネルギーを与える輻射熱の三つがあります。対流熱がスッキリした味を作り、伝導熱と輻射熱がどっしりした味を作ります。時間をかけて釜の内部だけでなく全体を十分に温めて、その予熱、蓄熱を頼りに火力を弱めたまま進めれば熱風系のスッキリした味に仕上がる、というイメージで焙煎していたのですが、これをやるとむしろ直火系の香ばしく太い味に近づくのです。

釜の内部の予熱というのは焙煎の序盤こそ豆に大きな熱を与えますが、すぐに蓄えが尽き、続きは釜全体の蓄熱から貰うことになります。その時に貰う熱は、伝導熱と輻射熱です。伝導熱だけでなく輻射熱も豆の表面を強く加熱する性質がある(どっしりした味になる)という情報も気付きのきっかけの一つでした。この高い蓄熱状態で弱火を使っているとなると、送り込まれる熱風も弱いものとなり、熱風の比率はさらに下がり、明らかな直火寄りの焙煎の完成となります。逆の例で極端なものだと、予熱ゼロの冷たい釜にいきなり投入して中火で進めるという強引な方法で出来た豆は、明るく綺麗な酸と、弱いコクと渋みを持つ熱風系の長所と短所が色濃く出ている豆になります。

熱風式も直火式も丁寧に行えば素晴らしい風味を出してくれる方法ですが、特徴を把握しきれておらず、ここ数週間は豆の個性を十分に引き出すことが出来ていないシーズンでした。