ニュークロップとオールドクロップ

コーヒー豆は環境にもよりますが焙煎してから数週間、焙煎前の生豆であれば数年は保存が可能であり、生鮮食品としては非常に計画が立てやすいです。生豆の状態でも徐々に水分や色が抜けていき、風味も変化していきます。収穫されてから数ヶ月以内の生豆をニュークロップ、当年のものをカレントクロップ、前年度のものをパーストクロップ、それよりも前のものをオールドクロップと呼びます。

ニュークロップの味の特徴としては、なんといっても明るさでしょう。まるで果汁を弱炭酸で割ったかのような爽やかさがあり、焙煎によっては草のような風味まで付いてきてしまったりコクが弱くなるといった落ち着きの無さも持ち合わせています。

長期保存が可能なニュークロップを出来るだけ仕入れたいところですが、地球の裏側で収穫された大きなロットのコーヒー豆がはるばる日本に渡ってくるとなると、実際に使われる新しい豆のほとんどは一年程度は経過したカレントクロップということになります。少し味のカドが取れて、扱いやすくなった時期です。

時間が経過した生豆はニュークロップと比べて酸味が出せなくなると言われますが、酸味の強さは豆の力に対する焙煎のやり方で決定するので、一概にそうとは言い切れません。三年ほど経過したオールドクロップといえるエチオピアのサンプルを極浅煎りにしてみたところ、酸味だけはニュークロップの浅煎りに劣らない強さがあり、オールド特有の滑らかさも加わって、別の方向で勝負できる立派なコーヒーが出来上がりました。ニュークロップで同じ焙煎度にしたら、おそらく渋くて飲めないでしょう。焙煎した後に常温で何ヶ月も経ってしまったコーヒーは美味しくありませんが、生豆の状態なら多少枯れていても十分に力を発揮してくれます。

それでもやはりニュークロップの方が優先されるのは仕方のないことで、テロワールが際立つことがオールドとの違いです。テロワールというのはエチオピアならこういう香り、コロンビアのここの地域はこういう味、といった土地や気候などで形成された風味の特徴のことで、味の説明や共有がしやすく、この点に関してはオールドは弱いのです。もともとはワインの用語で、土地の個性に特にこだわってきた歴史があり、コーヒーも農家がそれぞれ個性を打ち出ししのぎを削りあうスペシャルティの時代になってこのワインの考え方に近くなってきているのもニュークロップがより重要視される理由の一つです。

コーヒーは夏場の消費がやや落ちる傾向があり、秋になってから一斉に仕入れるということが多いのですが、それも寒い時期にコーヒーが美味しくなるといわれる理由の一つかもしれません。国ごとに収穫のタイミングが違うのでお米のような明確な端境期があるわけではありませんが、寒い時期になってきたら、数ヶ月前のコーヒーの味の記憶と比べてニュークロップっぽい味がするということもあるかもしれません。